【過去作】異世界で自給自足を目指しますっ!


あらすじ

ニートな青年、名無しのゴンベエは、とあるアニメショップで用水路に落ちて死亡した。そして、異世界へと転生するのだ。

萌えオタとして、自らの欲求を満たし続けるそれだけのために……



小説本文


 俺は、台風の最中、行きつけのアニメショップに来ていた。

 目当てはもちろん、「魔法幼女アカリ★クロスオーバー」の初回限定盤DVDボックスを買うためである。

 予約はした。予約はしたが、発売日に入手できないなんて悲しい出来事はもうたくさんだ。

 フラゲも辞さない勢いだった。だが、店長は冷たかった。以前に俺が発売日前日に手に入れたグッズやなにかをツイッタアとかで拡散したのが問題になったらしい。

 前の店長は首になった。世知辛い世の中だ。


 大型で強い勢力を保った台風が上陸していた。何十万年に一度の規模だという。

 全部のテレビ局が台風による被害を伝えている。(テレ東は除く)


 俺は、『本日は臨時休業いたします』と書かれた兄メイトのシャッターをこじ開けた。

 ニートで鍛えた腕力が物を言う。

 

 シャッターの向こう側は、今はやりの用水路だった。

 台風×用水路=死亡確率∞。




「あらまあ、この忙しいのに、イレギュラーな死因で私の元にくるなんて」


 気が付くと真っ白な世界で、そこには女神としか言いようのない綺麗なババアが居た。どうせ、年寄りだ。若く見えてもババアだ。ロリっ気が無いから利用価値もない。


 聞くところによると、この女神は、台風時に用水路に落ちた人専用の女神様だという。

 ほかにも、屋根の修理用の女神、田んぼの様子を見に行った(非用水路)用の女神などなど沢山の女神がいるという。


 で、俺はイレギュラーな存在だという。


「そうなのよ~、たんぼや畑の様子を見に行った人以外はほんとは受け付けてないのよね。

 だから、あなたを天上界へ送ることはできないわ」


「ってことは転生ですか? 異世界へ?」


「そういうことになるわね」


「わかりました! チートにはなにがありますか?

 異世界言語習得は? 獲得経験値千倍は?」


「ちょっとここのところ、品不足で……、『魔法の才能が突出してる』か、あとは『手先が器用』、それと『勝手に闘ってくれる便利な魔剣』のみっつぐらいしかないわね」


「じゃあ、全部ください!」


「はいどうぞ。ああ、ちなみに転生と言っても赤ちゃんからやると面倒だから今の歳のままで行くわね」


「ええ、望むところです」


「ではいってらっしゃい!!」


 実はこのところ『祝福(作者注:「このすば」と略すのが支配的であるらしい)』とやらの作品に首ったけな作者であるから、女神を連れていく展開にしたかったのだが、それはやめておいた。

 そもそも、俺は三次元には興味が無いのだ。


 そしてジェットコースターのようにオチへと向かう。




「ああ、ここが異世界か~。とりあえず、盗賊かモンスターに襲われている貴族でも助けるかな~」


 ぶらぶら歩いていると、マンモスに襲われている現地人が居た。


「ウホっ! ウホ!!」


 若い娘も居るが、ゴリラみたいな顔をしている。


 魔剣の力でゴリラを倒した。


「ウホ! ウホ!!」


 現地人のゴリラみたいなのに感謝されているようだ。

 言語と言うものが未だ成立していないらしく、俺の手を引いてどこかへ連れていかれた。


 洞窟だった。

 洞窟にすみ、獣の革を身に纏いという生活スタイルだった。


 俺は大落胆した。この世界には、アニメもラノベもテレビもラジオもない。

 おらこんな異世界はいやだ。


 俺は決心した。幸いにして、魔剣の力で戦闘力は十分だ。

 魔法の才能がすごいというチートは、現地人が魔法とかまだ開発していないので役に立たなかった。

 手先が器用が威力を発揮する。


 まずは、萌え衣装。

 綿花を育てた。山に入ってそれらしい種を採って畑を作る。

 前世でニートをしていたから、知識も労働力も十分だ。

 それに現地人が手伝ってくれる。


 綿花が収穫出来たら、それを綿にして撚り合わせて布にする。糸を作る。


 鉄も作った。

 山に入って、それらしい岩をとって来て魔法で溶かして鉄を抽出するのだ。

 おかげで、品質のいい針と、家庭科のあれ(はりとおし)ができあがった。


 そして、山で採ってきた藍っぽい植物のしぼり汁で、布を染め上げる。


 できた!! 神々しさを放つ、紺色のニーソックス!!!!


 それを、ゴリラの娘に装着させてみた。

 上半身は毛皮(はじめ人間ギャートイズのお母さんみたいに、片乳がはみ出たスタイル)で、足元はニーソックスだ。

『ケモ皮ニーソ』と名付けた。顔はゴリラだ。


 なんか違う。


 忘れてしまっていた。俺はそもそも三次元には興味が無いのだった。顔がゴリラであろうとなかろうと。


 二次元を演出するためには、壁画か地上絵を描くか、紙に書くかの三択だ。


 まずは壁画を試してみた。手先が器用だから上手く描ける。だが限度があった。

 黒曜石で作ったペン先を何本も何本も消費しても瞳の輝きや、髪の毛の質感、肌の光沢などが再現できなかったのだ。


 そこで、地上絵の出番である。

 現地人(ゴリラ)の軍団を総動員して地面を均した。

 東京ドーム8個分ぐらいの平らな土地ができた。

 そこに、縮尺比にして何十万倍もの美少女を描く。


 描いてから気づいた。これを俯瞰して眺めるほうほうが無い。

 

 紙を作る必要がある。

 紙の作り方は簡単だ。前世ではニートだったからお安い御用だ。


 ボールペンはさすがに難しすぎたので、万年筆を作った。

 一万年も持つのだから、一本あれば十分だ。


 あとは、彩色用に『こぴっく』というのを作った。詳しく知らないがイラスターの御用達アイテムだ。


 俺は毎日毎日絵を描き続けた。

 毎日毎日。紙を作っては絵を描いた。


 そしてある日気づいた。自分の絵心の無さに。

 自らが書いた絵では全然萌えないことに。


 これは、一大事だ。育成せねばならない。才能あるイラストレーターを。

 だが、しかし、イメージだけで伝わるものだろうか?

 やはり、上質な手本があればこそ、良質のイラストレーターが育つのだろう。


 俺は上映会を開いた。


 ゴリラを集めて、「魔法幼女アカリ★クロスオーバー」のDVD鑑賞会を開いた。

 良い作品というのは例え言葉が伝わらなくても感動が伝わるのだ。


 ゴリラたちは、感動して涙した。

 何度も何度も繰り返してDVDを見た。


 すると不思議なことに、日本語を覚え出したゴリラが出てきた。

 二次創作を始めるゴリラたちが増えだした。

 イラスト、小説、ぱらぱらアニメ。そのジャンルは果てしなく広がる。

 

 そうだ、芸術はバンコク共通だ!!


 俺は、沢山の萌えイラストに囲まれて幸せな一生を送った。




 今日は、「魔法幼女ハルカ★クリスティーヌ」の初回限定パラパラアニメの発売日だ。

 元々は版権元へ一切の連絡もせずに――異世界からだから連絡のしようがない――勝手に始めたスピンオフだったが、とあるゴリラが小説を書き、それにイラストが付き、今ではこの異世界中の人間(ゴリラ)が愛する作品となりあがった。


 先日は、劇場版の初回の封切りが行われて、大盛況で幕を閉じたばかりである。

 監督は俺だ。


 俺はVIPだから、発売前日にただで購入できる。

 足早に兄メイトに向った。


 そこでまた用水路に落ちた。


「あら、また来たの?」


 白い世界で俺を待っていたのは女神だった。


「ええ、今度は、ぱらぱらアニメの主題歌を作ってやりたいんで、作曲の能力ください。 あと、ゴリラじゃないところに転生させてください」

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