第4話『エンカウント』

【────√B-2】


その焼け焦げた人形を見て明逆は顔を顰めた。

確かにこれは思い出深い玩具だ──なにせ沢山、沢山詰まっているのだ。

思い出したくない、嫌悪の思い出が。


男の言う仕組み通りなら、それを払拭できるような玩具があればこんな所でまたコレを見ずに済んだかもしれない。

だが、ここでコレが現れるという事はそんな物には出会えなかったという証左に他ならない。

だがそれは当然だ。これを見てから玩具で……いや、そもそも遊びと言う行為を避けて来たのだから。出会いを自ら絶ったのだから。


海外に単身赴任していた明逆の父。彼が久しぶりに家族の元へと帰る飛行機が、墜落事故に巻き込まれ明逆の父も亡くなった。

明逆が小学生3年生の頃の話だった。

彼は帰りの便に乗る前、仲のいい同僚と連絡をしたそうだ。

『息子と遊ぶために玩具を買ったんだ。あの子はヒーローが好きだから、一緒に遊ぶ用の敵役のフィギュアなんだけどな?これは凄いんだぞ、帰ったらお前にも見せてやるよ』

なんて伝言を、その話した同僚の人から葬儀場で聞いた。


結局帰ってきたのは多少の肉と骨、母が送った時計の残骸。

それと、父を殺しまだ足りぬと我が家に侵略してきた焼け焦げた骨の怪物。

そんな半分にも、いや、数分の1にすら満たない父の欠片とガラクタだけだった。


だから見る度に思い出す。

ヒーローなんて居やしない、そんな夢物語を何時までも追っかけてないで現実を見ろ、と言われたような当時の記憶を。

父をあの世へ連れていき、母の精神を追い込んだ。そして母に溜まった鬱憤は、こちらに暴力という形で放たれ随分と痛い思いもした記憶を。


当然そんな中気楽に、笑って遊ぶ事なぞ出来る訳もなく。逃げるように勉強に打ち込んだ結果それなりにいい高校には入れた点は良かったのかもしれない。幸せと不幸せの釣り合いが取れているかと問われれば、決してそんなことは無いと答えるだろうが。


明逆にとってこの骨の玩具は正しく家庭を崩壊させた玩具カイブツなのだ。


そして、その人形を手に持った瞬間に頭に流れてきた“使い方”と、先のバトルロワイヤルという言葉。それらを理解し、いつの間にか動くようになっていた身体を動かし、表情を殺し仁科を1目見れば、


「別に、今ここで殺し合う必要も無い。バトルロワイヤルって言うなら、手を組んで最後まで残ったっていいわけだしな」

「……その通りだ。お前らはそれを使って殺し合ってくれればそれでいい。諦めず、最後の一人まで、な」


釘を刺すようなその言葉を最後に男は去っていく。煙に巻かれるように、その姿は直ぐに消えた。

このままカフェへ、という雰囲気でも無くなった為その日はすぐに解散となり、散り散りに帰路へと着いた。


◆◇◆


1度帰宅しラフな格好に着替え、玩具の能力とやらを試し、明逆は家を出て住宅街を歩く。外はもう暗く、明かりは街灯が仄かに道を照らしているだけ。人通りもあまり見受けられず、静かな夜。

明かりに照らされ見える明逆のその顔は眉が軽く顰められ、思い悩んでいるように見える。


(……俺が、巻き込んだのか。)


──先の答え合わせ。あれは明逆が近くにいたから、という理由で仁科が目をつけられこんな物に巻き込んでしまったのでは無いかと考えるのが自然だ。

もし一緒に帰っていなければこんなことにはならなかったかもしれない可能性は十分にある。


そうだ、噂の真意を考えるなら遠ざけるべきだったのだ。あのように人前で石を出し眺めているべきではなかった。物騒な噂が立っているのだから身近な人間を巻き込むべきでなかった。


あの黒スーツの言うようにこれは『殺し合い』の場。それに巻き込んでしまったのだ。

父の死が身近にあるとは言え明逆だって人殺しは躊躇われる。だけど、そんな甘い事は言ってられないのだと感情を無視した理性が苦言を呈す。

世の中、誰も彼もが正義のヒーローのような精神を持つ訳では無い。金だ、女だ、物だと下衆な願いを持つものは多数いるだろう。

そこに善意、悪意の差はあれど結局は願いが叶うと知れば考えるのは己の事。己の為ならば、人は幾らでも手を汚す。そういう生き物だと、17年ぽっちの人生経験は警鐘を鳴らすのだ。


だから、こちらもやらなければならない。躊躇って、殺されて、仁科を1人にして殺し合いの中に放り込むのは酷な話だ。巻き込んでおいてそれは無責任というものだろう。


よって、仁科を守る為に手を組むしか道はない。

そのまま2人で、もしくは仲間を集め最後まで生き残り、最後に“今までこれが原因で死んだ人間の蘇生”を願うのが、1番後腐れがない。

となれば明日、その旨を相談しよう。こちらから敵は探さずに、応戦する形にすれば殺す数は最低限だし、それがいい。


そう思考を締めくくりひとまず考えることを辞めた矢先、背後から声がかかる。


「────おいお前、参加者だろ」


振り返ってみれば、手に光る剣の玩具を持つ中学生程の少年がこちらに切っ先を向けニタニタとした笑みを浮かべている。

なぜ分かったのか、明逆は目を見開き驚いた様子で声の主を見る。当然玩具を取り出してはいないし、公言した覚えもない。

そんな疑問を覚えるものの、まずは返答するべきか。


「……あぁ、そうだな」

「そうだな。じゃねーんだよ雑魚!死ね!!」


少年は短気だったのだろう。すぐさま剣を振りかぶりこちらに向けて振るってくる。だが、決して馬鹿に出来ない。その速度は普通の中学生だとは思えぬほど、速い。


『ジャキィン!』


いかにも玩具らしい、喧しい電子音と共に剣は振り下ろされる。

こうして戦いの火蓋は……切って落とされた。


◆◇◆


「……ふぅ、全く。演技というのも楽じゃない」


明逆の戦いが始まった頃、仁科彩花は自室で息をついていた。その様は学校とは違い眼鏡を外し、髪を解いただけだと言うのに普段のお堅いイメージはどこかへと消え、整った容姿を露わにしている。

今はその姿で明日の授業の準備をするため鞄の中身を取り出している。

その中には、先程の騒動のクレヨンもあった。それらを机に並べれば口の端を上げ、窓の外を眺める。


「ふふ、楽しませてくれよ?明逆。君には期待してるんだ」


そう言って、何も無い所から机の上のものとは別の“クレヨン”を出現させ、意地悪そうに笑う。

張り巡らされた蜘蛛の巣で、新たな参加者を歓迎するように。


→→→→→→→→→→→→→→→→→

最近リングフィットを買うか悩んでる、五月です。


明らかになる康裕の過去。始まってしまった初戦。次回漸く康裕の玩具の能力が明らかになります!


それではまた再来週(。`・ω・。)ノシ

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