第12話 午後の公園
三角山公園は、山のてっぺんから伸びる長い滑り台とアヒルや白鳥が憩う池がある公園で、午後になると学校が終わった小学生たちが遊びに来る。魚谷はベンチに腰掛けわたる先生と待ち合わせをしていた。もう約束の時間はだいぶ過ぎている。カフェオレを買って飲んでいたがもう飲み終えてしまった。ゆっくり立ち上がると自動販売機の脇に設置されているゴミ箱に缶を捨てる。
「遅れて申し訳ありません。」
魚谷がくるりと振り返ると、そこには白いポロシャツ姿のわたる先生が立っている。
「お待ちしていました。そこのベンチで話しましょうか?」
魚谷は、何か飲みますかとわたる先生に尋ねたが結構ですと断られふたりはベンチに座った。
「わたる先生!今朝、集会所の火事のニュースは見ましたか?」
わたる先生は、少し上の方を見て「はい。見ました。」と答える。
魚谷は、正直に昨日被害にあった女の子がわたる先生に助けてもらったと言っている事を話して、わたる先生は昨日どこにいたのか丁寧に質問する。
わたる先生は立ち上がって「タバコ吸ってもいいですか?」と魚谷に聞いてから少し離れてタバコに火をつけた。ちゃんと携帯灰皿も持っている。しばらくして「昨日は、保育園は非番で休みでした。午後から近くの本屋へ買い物に行きましたがその後すぐに家に帰りましたよ。集会所へも行ってなければその女の子にも会っていません。本当です。」
魚谷は手帳から写真を取り出してわたる先生の方にみせた。「写真。写真を見せたら女の子はわたる先生に助けてもらったと言っているんですよ?」
「助ける?私は知らない…貴方も私を疑っているようですが、私は何もしていません。申し訳ないが、まだ勤務中なので私はこれで失礼します。」
そう言い終えるとわたる先生は、タバコの火を消し灰皿にしまった。
魚谷は、複雑な表情を浮かべている。わたる先生が、去ろうとすると「待ってください」と引き止めようとした時「ああ、そうだ。喜恵ちゃんはどうなりました?」急に魚谷へ質問し出した。「えっ?」戸惑う魚谷にもう一度「喜恵ちゃんですよ、見つかりましたか?」「…まだ見つかっていません。」わたる先生は、「私を疑う前に喜恵ちゃんを見つけてくださいよ?」そういい残して去っていった。
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