第8話 刑事 園山

 園山刑事は一連のかものはし保育園での殺人事件で、聞き込みにまわっていた。

 わたる先生の家にも訪れる。郷家と書かれた表札の家はかなり広く立派な造りだ。

 呼鈴を鳴らしてしばらくするとインターフォンに男性の声が出る。「はい。」園山刑事は身分をあかしちょっと話を伺いたいと述べると少しして、わたる先生が玄関に現れた。

 わたる先生はいたって冷静に「どうぞ。」と園山刑事を中へ入れる。

 玄関には男性の靴が一足女性の靴が一足だけあり、廊下を通りリビングへ入る。

 「どうぞお掛け下さい。」とわたる先生は園山刑事をソファーへ座らせた。

 リビングはとても綺麗に片付けてあり、テレビの画面も大きくテーブルにはものひとつ置いていなかった。

 「こちらは、先生のご自宅ですか?確か独身だったと前にお聞きしていましたが…」

 わたる先生は、コーヒーをトレーに入れて運ぶ。淹れたてのコーヒーの良い香りが園山刑事の鼻に香る。

 「どうぞ、冷めないうちに。ええ、ここは私の実家です。両親は幼い頃に亡くなりました。今は、双子の妹と一緒に住んでいます。」

 コーヒーを飲むと園山刑事は続けた。「妹さん?そうでしたか、玄関の靴は妹さんのものでしたか…。」

 わたる先生は、横のソファーに座る。

 「それで、お話と言うのは何ですか?」

 園山刑事は、手帳を取り出してわたる先生に問いかける。

 「黒澤先生の件でしてね。前にも保育園で、先生方お一人お一人とお話はさせていただいたのですが、黒澤先生が亡くなられた日わたる先生は、どこにいらっしゃいましたか?」

 「まさか、私を疑っているんですか?」

 「いえ、先生に限らずご自宅に聞き込みしているんですよ。」

 「あの日は、真っ直ぐに家に帰りましたよ。そうだ、宅配が確か届いていたはずです。私が受けとりましたから、ドライバーにでも聞いてみて下さい。」

 園山刑事は、手帳に書き込んでこう切り出した。

 「あとね、お気を悪くされないで欲しいのですが、保育園の先生方からわたる先生と黒澤先生が、その日激しく言い合っていたのを見かけた先生がいらっしゃいましてね。何の話をされていたんです?」

 「あぁ~黒澤先生とは保育の指導に食い違いがありまして、それで私も見かねて注意をしていたんです。」

 わたる先生は、園児を暗い物置に閉じ込める黒澤先生をそれは虐待だからすぐに出すように注意したことを話した。

 「そうでしたか…わかりました。いや、ありがとうございました。また、何かありましたら連絡下さい。」

 「わかりました。」

 園山刑事が席を立って玄関に向かおうとした時部屋の隅におもちゃが沢山並んでいるのが気になった。

 「あれ?おもちゃが沢山ありますね?子供さんが来るのですか?」

 「あれは、保育士なので勉強ようです。」

 園山刑事は、少し違和感を感じたがわたる先生の家をあとにした。

 



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