第5話 保護者説明会
貴恵ちゃんの事と両親の死を受けて、保育園では緊急の保護者説明会を開くことになった。
魚谷が保育園に到着したのはすでに説明会が始まり15分を経過した頃だった。
玄関ホールには、白いポロシャツに紺色のズボンをはいた男性の保育士が案内係として長テーブルのわきに立っている。笑顔の絶えないその男は、魚谷より少し早く到着した保護者に対して、「おはようございます。」と甲高い声を出し書類を手渡していたが、保護者は急いでいたのかあいさつには返答せず、書類だけをとって体育館へ足早に去っていった。
すると、その男は急に表情が曇り、歩いている保護者を背に睨み付け舌打ちをした。そして、「挨拶くらいしろよな。」と強い口調で怒鳴った。幸い保護者にその声は聞こえてはいない。魚谷は、男の気分の変わりように怖さを感じたが、靴を下駄箱に入れてスリッパを履くと男の方に向かって自分から挨拶をすることにした。
「おはようございます。」魚谷の声に対し、男は満面の笑みを返してきた。「おはようございます。体育館はあちらです。」書類を渡され「ありがとうございます。」と言うと、男は信じられない事にただ真っ直ぐ行った突き当たりの体育館まで親切に誘導し始めた。場所がわからないと言った訳でもないのに、この男の基準は自分に礼儀正しくしたかしないかだと魚谷にはすぐにわかった。
説明会では、園長、副園長、事務長、保育士2名が壇上に横一列に並びパイプ椅子に腰かけている。前には長テーブルが置かれワイヤレスマイクがそれぞれの前にセッティングされていた。向かい合うようにして、保護者がパイプ椅子で端から端までぎゅうぎゅう詰めに座らせられており一人の保護者が、職員に手渡されたマイクを持ち怒り心頭で事実確認をしていた。「信じて預けたはずの保育園で園児が誘拐されるなら、うちの子は今後預けられませんよ?でも、仕事があるし急に転園は無理だしどうしたらいいんですか?」婦人は顔を赤くしてやかんのようにカンカンになる。園長はすかさず立ち上がって「申し訳ありません。現在警察が捜査中です。まだ進展はありませんが、その間も保育園では厳重な管理のもと、保育園から外出は控えて外門には警官に守って頂きながら、今まで通り続けていきたいと考えております。それでも、心配な方は、保育園を休まれても構いません。何卒ご心配とは思いますがご理解のほどよろしくお願いします。」園長は深々と頭を下げてばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます