第4話 それって、私じゃないとダメなんですか?


「今日からは、エデン周辺で活動する勇者たちの観察をしてもらいます」


「おかしなことがあれば報告すればいいんじゃな」


「その通りです」


勇者は異世界において欠かすことができない存在だ。世界を救うという任務を課された彼らはカッコいい存在で、誰もが憧れる存在でもある。しかし時を間違えば、勇者も突然不要な存在になることがある。


ユダの世界では、バベルとエデンが1000年にもわたり戦いを繰り広げていた。敵国と戦う人々はどのような形であれ勇者と呼ばれ、常に求められる存在であった。


そんな勇者たちは今や戦う相手がいない。勇者と呼ばれる人々は一体何をしているのかと疑問に思う人もいるだろう。その答えは簡単だ。平和を守るための治安活動だ。今や魔物退治が元勇者達の主戦場となっているのだ。


勇者達の中には、今の生活を満足していない人もいる。そんな勇者が多く登場すれば、エデン王の地位が危うい。エデンの王が倒れれば国自体が崩壊してしまうおそれがある。そうならないように、管理する仕事こそが、ダビデスに果たされた仕事なのだ。


「いいですか、このモニターにはエデン周辺の様子が映し出されています。ここで起きていることは、監査部の私たちが平和のためにしっかり行動をしなければなりません」


「いままでも治安が安定していたんだろ。だったら今まで通りのメンバーでやればいいんじゃないか」


「そうはいきません。ここ数ヶ月エデンで異常行動をする勇者が増えているのです。治安維持部だけでは成り立たず、監査部というものが立ち上げられました」


ベタすぎる。その設定ベタだ。どうせエデンに問題があるのだろうと思ったダビデスと筆者であったが、とりあえずナオの話を最後まで聞いてみることにした。


「監査部はいわば異常行動をする前に該当の勇者を捕まえ、行動を正してもらうという試みです」


「なぜ、そこまでして平和を維持したいんじゃ。今は平和だからいいじゃろ」


「ダビデスさんは知らないと思いますが、こうなったのも過去の過ちを起こさないためなんですよ」


「知ってるも何も、その男こそバベルを作ったとルカ王じゃろ。」


「そうです。あんな存在を放っておいたことで街は一時崩壊しました」


「とはいえ500年以上も前の話じゃろ。心配することはない」

 

「その油断が平和を揺るがすんです。問題行動を起こす勇者の多くはルカ王に憧れた存在でした。だからこそ、ルカ王を熟知している人間が必要なんです」


「それならルカ王をお前達が調べればよいだろう。ワシに依頼せんでも。そんなことじゃ平和を保つことは一生できんぞ」


ダビデスは皮肉をたっぷり込めてそのセリフを発したが、ナオは気づかなかった。


「とにかく、バベルで開発された魔法や戦い方を真似ようとする人がいたらチェックしてください。わかんない場合は、これを参考にしてくださいね。」


そう言うと、厚さ30センチ程ある辞書のようなものを渡された。


「なんじゃこれは」


「最近作られた辞書のようなものです。急遽作ったので名前がありません。」


どうやら本当に辞書のようなものだった。文字ばかりだと思ってダビデスは退屈そうに辞書のようなものを開けた。そこには、イラストで事細かく勇者の動きが書かれていた。どうやら、この動きを逸れると違法ということらしい


「これがあるならワシは必要ないじゃろ。誰でもできる仕事じゃないか」


「じゃあ、このケース221はどちらに該当しますか」


ダビデスの挑戦に対し、ナオはある映像を検索しダビデスに見せた。その映像にはダビデスも困った時に使っていた「悪の波動」という魔法が使われていた。この魔法は名前こそ悪とついているが、勇者が弱った状況で赤いオーラをまとうことで戦闘力を高めるというものだ。この魔法により自分にはない潜在的な力を発揮するので、ダビデスの育った国ではよく使われていた魔法の1つだ。


「これは、仲間を鼓舞する魔法だ。違法じゃないに決まっている」


「違法です」


「なぜじゃ。これをやらなければ場合によって命を落とすことになるぞ」


「もし、この魔法をエデンの王の前で唱えて王を殺したらどうですか。場合によっては国を大きく揺るがす出来事になってしまいますよ」


「またしても王か。この国はエデンの王にビビっているだけじゃな。平和かもしれんがワシがやっていることと変わらん。何が平和の象徴エデン王じゃ。その実態はただの独裁者じゃないか」


「ドクサイシャ?」


「魔王みたいなもんじゃ。なぜそんなこともわからん。とにかく、監視をせんぞワシは」


「では聞きますが、ダビデスさん自身は自由に仲間を放置してどうなったんですか。仲間に裏切られ、氷漬けになって今みじめな生活をしているのではないですか」


「…………」


ダビデスは、言い返すことができなかった。


「とにかく、これをやればエデンの国がどうして平和なのかがわかります。ダビデスさん、更生するチャンスですよ」


明らかにナオの理論はおかしい。自分が魔王でもエデンの平和が違和感でしかないことがわかる。でも、何が間違っているかを説得することができない。とはいえ、ここで断ってしまえば自分の命も危ないどころか、悪の王ダビデスとして再臨しても同じ過ちをする可能性が高い。もしかしたら、この機会は更生するための絶好のチャンスなのかもしれない。


「ナオの言う通りじゃ。ワシはちょっとやり直してみることする」


ダビデスはそう言うとモニターと真剣に向き合うことを決心した。


「エデンが明らかに悪い存在なんじゃないか?」と読者でもわかるくらいの謎を解き明かそうとしているのか、それ以外のことを解き明かそうとしているのか。真剣に向き合う理由はダビデスにしかわからない、、、。


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