第3話 それって、何かの罪に該当しないんですか?

ユダの世界にある「補助魔法」と呼ばれる魔法は、勇者達からも賛否両論が分かれる。というのも、強化されたからといって必ず勝てる保証はどこにもない。補助魔法で強化されて、さぁいくぞ!と強くなったとしてもやられてしまうこともある。しかも術式が複雑。一時は補助魔法不要論という言葉もあった。


そんな常識を大きく変えた男がいた。その男の開発した魔法は範囲内にある全ての属性魔法を無力化するというものだ。術を唱えた人間以外は。男は、その魔法を使い多くの敵を倒した。この魔法は考案した男の名前をとって『ダビデ』とつけられたのだ。ダビデスはこの魔法を多用し圧倒的な強さを誇り、なんやかんやあって魔王となったのだ。


「どうしたんですか、ダビデスさん。今日はいつも以上に元気がないですね」

「いや、かれこれここにきて5年経過したが、ワシの任務はまだ終わらんのか」

「そうですね。まだまだ平和には程遠いので。その証拠にほら!」


ナオは得意げにモニター画面に映る3人組の勇者を映し出した。


「ダビデスさん、これみてください」


ナオはモニター画面をこまめに切り替えコマ送りをしながら、画面に映る3人の男を映した。1人は呪文を唱え、もう二人は呪文を唱えている男に向かいファイアーを放とうとしていた。しかし、次の瞬間当たるはずのファイアーはどこかに消え。その瞬間3人の男達はガッツポーズをしていたのだ。


「おお〜。エデンにもダビデを唱えるやつがおるか」


「ダビデはエデンでは禁止なんですよ。ダビデを唱えられる人間が、政権に対して不満を持ったらどうするんですか。それこそ革命が起きて王政が揺らぎますよ」


「そうかもしれんが、別にいいだろう。ダビデを自動で発動できるダビデスの剣がある限り

エデンの城の安全は保証されているんじゃろ」


「悪の根源を断つのが私達の仕事です」


「あのな〜。一応ワシは協力しているだけに過ぎないんだぞ。それに勇者が使ってはダメな魔法なのに、どうしてエデン側は使っていいんじゃ?エデン側に同じような考えの人間がいたらどうすんじゃ?おかしくないか?何の罪に該当するのかはっきりしてくれ。」


「たまにここへ来た時のようなギラギラした表情になりますよね」


「そりゃワシはこの制度に納得してないんじゃ。今も昔も」


ダビデスは、エデンに来た頃のことを思い出した。




自分以外全員敵。衝撃の告白をしたナオの発言に、魔王のくせに精神的にショックを受けたダビデスは落ち込んでいた。


「オーク殺しのヨゼフに裏切られたことがそんなにショックなんですか」


「知らんかもしれんが、ヨゼフは本当に勇敢な男だった。そう、あれは忘れもしない。オーク平原の出来事じゃ……。」


ダビデスは裏切られた時のヨゼフの表情を思い出しながら、あの時のことを思い出した。


「ヨゼフ=ハルトの末裔であることをヨゼフが打ち明けて、復讐のチャンスを与えようってくだりになったら教えてください」


え?今からそれを言うために5話くらい引っ張ろうとしたらもう言っちゃうの?人気漫画とかであれば、ここから回想をして物語に厚みが深まるのにそういうお約束は一切なし!?ダビデスだけでなく、筆者、読者もツッコミたくなるほど、あっさりと種明かしをしてしまった。


「なんで知ってるんだ」


「だから、ヨゼフはこっちの人間って言ったでしょ。ダビデスさんが同情するようにこっちで設定を作ったんだから」


そうだった。もともとダビデス以外全員敵だったのだ。

だからダビデスの重厚感のある回想の物語なんて存在しないのだ。ダビデスは踊らされていたのだ。そんなことを思い落胆していると、いつしか遠くにうっすらと重厚感のあるお城が見えてきた。え?説明が雑!?正直、城の説明をしっかりしたところで物語に1mmたりとも必要ではないので、ざっくりと説明する。とはいえ、ダビデスが滅ぼしたかったエデンの城であることには間違いない。


「到着しましたよ。ダビデスさん」

「言わんでもわかる」


ダビデスは、ナオが魔王に対し敬意を払ったのだと感じた。門をくぐれば敵陣。エデンの民の中には、大切な人をダビデスのせいで失ってしまった人もいる。もしダビデスの誇る国バベルにエデンの王を迎え入れたらどうなるか想像してみた。バベルの民に罵声を浴びせられたに違いない。場合によっては刺される可能性だってある。


ダビデスは今から丸腰で敵陣に乗り込むその気持ちで城に足を踏み入れた。しかし、予想していたような事は一切起きなかった。ダビデスを不思議そうな顔で見つめるものの「ダビデス死ねよ」といった声は一切聞こえなかった。そして、簡単に城の中に入ることができたのだ。


「なぜ誰一人私を憎まんのだ。私はエデンの勇者を何人も殺したんだぞ」

「まぁ、今は平和なので。それに、ダビデスさんが来ることは事前に知らされているので」

「だとしたらなおさらだろ。ワシの国でやったら確実に殺されるぞ」

「それだけエデンは統制されているんですよ」


ナオは淡々と話しながらダビデスを地下へと案内した。もちろん、ダビデスは犯罪者でもあるので、王に会わせることもない。長い階段を降りると、重厚な扉の前に案内された。


「ダビデスさんが今日から働くことになる場所ですよ」

「平和に協力するってやつだな。で、何をすればいいんじゃ」

「監視ですよ。勇者の」

「勇者の監視をしろと」

「得意ですよね。監視!?」

「確かに得意じゃが、ここでもバベルでやったことをやるのか」

「だからここに呼んだんですよ」

「ただ見てただけで、監視力はないぞ」

「本当ですか!?研究していたんでしょ!?本当は」

「ぐっ、、、」


ダビデスの行動はナオに見透かされていたのだ。というよりも、エデン側のスパイにお見通しされてい0たようだ。


勇者が城に入ってくると魔王が勇者を監視する。ベタな行動をダビデスは好き好んでやっていた。むしろ、「はははは、勇者を魔王の間まで辿りつけるかな〜」ということを言いたいがためにやっていたのだ。しかし、ただアホなゴッコ遊びをしていた訳ではない。勇者がどんな動きをするかチェックし、ダンジョンの攻略中に傾向と対策を考えた。ダビデスがどうしてそんなことをしたのかは、いつか触れよう。


「それにしても、すごいモニターじゃなどれくらいのエリアを監視してるんじゃ」

「ユダ一帯です」

「え!?ユダ一帯!?」

「これで常にユダの平和を監視するんです」

「じゃあ、ワシはモンスターの動きを監視すればいいんか」

「いえ、勇者です」

「勇者!?」

「あなたみたいな悪を二度と出さないよう、監視するんです」

「つまり、魔王が勇者の行動を監視して報告するってことか」

「そうなんですけど、もっというとダビデスさんが勇者の違法な戦い方を見抜くって仕事です」

「勇者の違法な戦い方って何よ」

「エデンには”エデン勇者法”というものがあります。それに則った戦い方をしなければならないと法律で定められています。決められた戦い方をしないと、勇者の資格を剥奪され罪にとらわれるんです」

「戦い方は自由だろ。違法なものなんて何一つない」

「それは、バベルのルールです。ここエデンです。エデンのルールに従ってもらいます」

「勇者の動きを制限するって、それって何かの罪に該当せんのか」

「ええ、その方が平和になるので」


こうして、元魔王が勇者の行動を監視するという生活がはじまった。正直、ここで物語を終わらせても良いのだが……。もう少しダビデスの行動を観察しようとしよう。

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