第2話 そのネタバラシ、早すぎじゃないですか?
ひと昔前のユダで戦う勇者たちに、”最も厄介なモンスターは?“と聞けば、オークと答えが返ってくるだろう。オークは人間並みに知恵があり、パワーがある。
”オークは無能”。魔法で挑めばなんとかなる。そんな安易な考えをしていた勇者であれば、ことごとくオークの餌食になるだろう。オークには魔法を無力化する力があり、魔法を唱える力がある。しかも俊敏性もあるのだ。
オークは魔法を唱える前に勇者には隙ができることを知っている。オークは魔法を唱えさせるまで勇者を挑発し、勇者がしびれを切らし魔法を唱えた瞬間に勇者を襲うのだ。何も知らない勇者がオークに立ち向かいどれほど倒されたことだろうか。
そんな中、オークを倒す方法を考案した男がいた。”勇者はどのような相手でも真っ向から勝負をする”という教えを反した戦い方を考案したその男の戦法は、勇者の教えから大きく異なる方法だ。
オークの背後に素早く周り背中を一斬りしたのち、至近距離で傷口に向けて風の魔法「エアロ」をお見舞いするのだ。そうすることでオークは倒れ、勇者としての腕力があれば簡単に倒すことができるのだ。
ダビデスは、昔の人間が考えたオーク殺しの映像をぼーっと見ていた。
「ダビデス様、勇者おおつかのオーク殺しの映像に問題がありましたか?」
「エアロを唱えるまでに多少のズレはあったが問題は全くない。この秒数なら確実にオークを殺せたはず」
「よかったです。本当に死んでいるかどうかを判断したかったので」
「死んでなくても、危険だけどな。オークには自己再生能力がある」
「そうなんですか」
当然のことにように答えたダビデスに対し、ナオは驚くように聞いた
「エデンの勇者はこんなことも知らないのか。オークは放置したら自然と回復するんだぞ。だから厄介なんだ。それにオークに対して補助魔法を唱えたら、オークが強化されて村を襲うこともある」
「確かにそうですね。一歩間違えると危険ですね。オーク倒しって」
無知なナオに対し、ダビデスは落胆した。なぜこんな奴らに負けたのだろうか。
自分が情けなくて仕方がなかった。
「エデンの勇者には自由な戦い方がないのか」
「自由な戦い方を与えると混乱を生みます。平和のためです。こちらが定めた戦い方から外れると"ダークマインド"が芽生えます。あなたのように」
「そこまで徹底しないとこの国は平和にならんのか」
「ええ」
「ワシは、なぜこんな軟弱な王国に負けたのだろう。悔しいわい」
「ダビデスさん、やはりこの倒し方気に入らないですか」
「………」
―――――――――――――――――――――――――――――
「本当に知りたいですか?ダビデスさん」
「ああ、ワシが30日で世界征服に失敗した原因を知りたい。30日だぞ情けない」
正直、理由を聞きたくないって気持ちもあった。世界最強と言われたダビデスの剣の前では、どんな魔法も無力化することができる。その力で何人も勇者を倒していた。
あの状態でもし、仲間が裏切っていたら。苦楽を共にした屈強な男たちの中に裏切りものがいたなんて。そんなことを考えると胸が痛いのだ。
「側近の裏切りです」
「え?」
さっきのワシの感情はなんだったのか。
「ていうか、そのネタバレ早くないですか!?そこは包み隠さず言うべきでしょ」
「はっきり言って欲しいって言ったので」
「そうじゃなくてさ、こうわかんないかな〜もうちょっとこの出来事には裏があって、それをこれから調べるみたいな胸アツな展開があるでしょうが!」
「ダビデスさん、勇者の冒険を読みすぎですよ」
「あれは良い書物だ」
―勇者の冒険。それは、ユダで昔から読み継がれる書物だ。エデンもバベルも関係なく読み親しんだ書物だ。そのストーリーは勇者が魔王を倒すというベタな設定で、その中には現世でいうライトノベルのお約束が詰まっている。誰が書いたがわからないその書物に、ユダの子供たちは大きく湧いた。
ナオの告白に大きく混乱したのはダビデスだけではない。作者自身も”この先どうやってシナリオを作るんだよ“と悩むようになってきた。迷走の予感である。話を2人に戻そう。
側近の裏切り、ナオから衝撃的な発言を聴きダビデスは困惑をしていた。誰が裏切ったか知るべきかどうか。でも、知っておいた方が良さそうだから思い切って聞くことにした。
「ナオよ、裏切った側近ってのは誰だ?」
「ヨゼフ」
「だから、ネタバラしが早いんだって!」
「しょうがないでしょぉ!知ってるんだから!ヨゼフがあなたの背後から至近距離でアイスを打ったのよ。オーク殺しのヨゼフだからこそなせる技よ」
「そうじゃった。オーク殺しのヨゼフじゃった。まさか、ワシの教えた技で、ワシを倒すとはな」
「え?あの技ヨゼフが考えたのでは」
「きっかけを与えたのはワシじゃ。オークを倒すような勇者になりたいそう強く願った男に、俊敏性を利用した戦い方のアイデアを与えたんじゃ」
ダビデスは戦闘においてアイデアマンでもあった。しかし、ダビデスは運動神経が鈍い。それが原因で世界征服を目指すのだが、その話はもう少し後にしよう。
至近距離から魔法を放つのは、勇気がいる。自分が魔法の餌食になってしまう可能性があるからだ。ヨゼフは巻き添えにならないよう唱えた瞬間に後ろにジャンプすることで、被害を最小限に抑える方法を初めて実戦でやってみた男なのだ。その瞬間から、オーク殺しという異名を持つようになった。
ダビデスは、技のことを解説するとあることに気づいた。なぜ、ヨゼフは裏切ったのか。恐る恐るナオに問いかけてみた。
「もしや、ヨゼフってエデンの使いなのか」
「そうよ。もっというと、あんた以外の人間全員エデンの人間だから」
え?それもう言っちゃうの?ストーリーの序盤だよ?そんな声がダビデスから聞こえそうだが、ダビデスはネタバラシよりも、自分以外の人間に裏切られていたことに大きくショックを受けていた。
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