2、脳内TIPS

機械を身体の一部に埋め込むというのは今に始まった事ではない。

だが脳に埋め込むというのはどうだ。余りにリスクを伴わないだろうか?

かつて軍事利用にロボトミー手術など禁断の手法があったが医療行為には到底及ばなかった。倫理観というのを人は持っているからだ。

それなのにも関わらず……なぜ!なぜ! この時代になって脳内を弄ることが認められたのか。

それも倫理的にアウトだろ!

クソクソクソ、なにがあっても冷静なこの俺がたかがひとつのTIPSに悩まされるとは。

お、落ち着け、俺。まだ脳内TIPSは発売されていない。発売するのも後1週間後だ。手が震える……いや俺の全身が震えているのか。

IQ180の天才が! 

俺が……初めて……恐怖を感じているだと……。

もし、これが世間に広まったらどうなる?

この俺が、凡人にな……る。

それはありえない。あってはならない。

全知全能、神とも言われたこの俺が凡人共と同じラインに立つというのか。

否、違うはずだ。脳内チップも凡人と俺が使うのでは差がでるはずだ。

俺が凡人とは違うことを証明するには、脳内チップをできるだけ買い込み、自分に読み込ませられるかにかかってるな。

発売日は話題のトピックスのトップにあった。それらの記事のニュースやCMの「知識社会の到来」という言葉に何か引っかかるが、それ以上に自分のいろんなものを維持できるかが重要で考えは回っていなかった。

早速俺は、TIPSを大量に買い込み、脳内に蓄積していった。

この手のモノが副作用を齎す可能性は重々承知していたが、この世界で常にトップに立つにはリスクが付き物だった。こんなものが出てしまった以上は。

そして俺は脳内TIPSを手に入れても人間社会の頂点にいることに変わりなかった。

俺と同じような事を考えていた連中も俺と同等の知識を手に入れることはできた。

だが、それを知恵に変換するのには長年の経験が必須だった。

俺は安堵した、と同時に少し残念だったのかもしれない。

もしかしたら俺と似た考えの人間が出てくるかもという淡い期待があった。

それもどこかエラーとして脳のどこかにいってしまった。

相変わらずの地位を持っていても面白くなかった。

それもそのはず、時間をかけて手に入れなかったものに価値は生まれないからだ。

この世界では、価値という言葉が消えつつあると俺は知った。

だがそれに対して感情も沸き上がらない、だってそれは当たり前の事なのだから……。

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