第2話
お母さんにはああ言ったが、僕たちは毎日遊んでいた。
そんなある日、
「よし!今日は別のところに行ってみるか!」
突然翔也が言った。
「え? どこ…」
「こっち!」
僕は手を引かれて、翔也が言う通りについていった。
「ここは……?」
「ん?カラオケ」
「僕、歌全然知らないんだけど……」
「いいから、いいから!中に入るぞー」
カラオケの中は個室になっていて、大きい音が響き渡っていた。思わず耳を押さえたくなる轟音だけど、きっと世間の高校生は、これが普通なんだろう。僕だけしか気にしていない。
長く入院していた僕は、他の人と感覚がずれてるんだ。
「うるせー! 音量下げようぜ」
翔也は機械をいじって、音を小さくした。
僕だけじゃなかった。うるさいって思う人。
口から笑いがこぼれでる。
「どうした?なんか面白いことあったか?」
「いや、別に」
僕は笑いを押さえながら言った。
「じゃあ俺先に歌うから、選曲しとけよ!」
僕に機械を渡すと、翔也は歌い始めた。
僕でも聞いたことのあるのような、今流行っている曲だ。
どうしよう……。
本当に歌える曲がない。
ホーム画面から適当に探すが、一向に歌える曲は見つからなかった。
このままだと、翔也が歌っている最中に決められないかもしれない。
目を皿にしてスクロールをしていると、歌える曲が見つかった。でもこれって……。
……大丈夫。きっと翔也なら受け入れてくれる。
「ふーっ。一番最初は緊張したなー。
真人、お前何選ん……」
低音の前奏が流れてくる。
画面に題名が映し出される。
「君が代」
僕は大きく息を吸って、冒頭を歌い出した。
歌い終わる頃には、息が少し切れていた。
翔也は絶句している。
不安になって、おそるおそる翔也の方を見る。
やっぱり選曲間違えたかな……?
でも、翔也の言葉は、僕の予想しないものだった。
「お前、やっぱり面白いな!
色んな友達をカラオケに誘ったけど、『君が代』を歌ったのはお前が初めてだよ!」
翔也は腹を抱えて笑っていた。
僕はなんだか、嬉しいような、照れくさいような気持ちになった。
家に帰って食事をする。
いつもよりも少し多くご飯をよそった。
僕はお母さんに今日の出来事を話した。
お母さんは僕の話をにこにこしながら聞いている。
「真人は本当に楽しそうにしゃべるねえ。
お母さん、嬉しいよ」
その嬉しそうな顔を見て、僕はさらに幸せな気持ちになった。
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