君と2ヶ月の秋

yurihana

第1話

僕は16才の時に、体調を崩して病院に入院した。肝臓の病気だとか言われたけれど、難しくてよく分からなかった。

でも、とにかく、このままじゃ僕は死ぬんだと思った。臓器移植をしないといけないんだけど、臓器を提供してくれる人は簡単には見つからない。

何回も入退院を繰り返した。

病気の進行が結構早かったみたいで、17才の秋にまた病院に運ばれた。

病室の外で待っていなさい。そうお母さんには言われたけれど、気になってそばで耳をすませた。

「残念ですが、2ヶ月生きられればいい方でしょう」

医者の声が聞こえてくる。

「何か方法はないんですか!?」

お母さんの声だ。泣いているようだった。

真人まさと君の肝臓はもうほとんどが使い物になっていません。薬や治療で誤魔化してきましたが、臓器提供をしてもらえない限り、どうすることもできない状態なんです。

あと2ヶ月、真人君にはあまり入院などはさせず、自由に生きさせてあげたらどうでしょうか……」

「そんな……」

お母さんは顔を手で覆って泣いた。

僕は呆然として、その声を聞いていた。




溜め息が漏れる。

僕は今、校舎の裏でお弁当を食べていた。

「あと2ヶ月か……」

声に出しても実感がない。ぼーっとしながら、僕はウインナーを口に放り込んだ。

入退院を繰り返していた僕には、友達というものがいない。

教室にも居づらいから、校舎の裏でお弁当を食べるのだ。

ここは木々が揺れていて、風も気持ちいいし、お気に入りの場所だ。

僕は水筒の水を一口飲んだ。

「なあ、お前誰?」

「ごほっ!ごほっ!」

僕はびっくりして、口の中の水を吹き出した。

僕に話しかける人がいるとは思わなかった。

「おいおい、驚き過ぎだろ。なんかおもしれーなー」

「僕は、林真人。鈴木君と同じクラスだよ」

「ん?」

鈴木君は考え事をしていた。

「ああー! いつも入院して、クラスにいないやつ!」

鈴木君は合点がいったというように手を叩いた。

鈴木君はクラスで目立つ方だ。運動ができて顔もいい。勉強もできるという噂だ。

僕はそそくさとその場を去ろうとした。

「おいおい、どこ行くんだよ?」

鈴木君は僕の制服をガシッと掴んだ。

「せっかくなんだからさ、何かしゃべろうぜ! 俺、いつもあんまり話さない人としゃべんの好きなんだよねー」

「鈴木君が僕と話してもそんな面白くないと思うよ」

「面白いかどうかは俺が決めるし、鈴木君って言うんじゃなくて、翔也しょうやって呼んでくれよ」

「うん、分かった。翔也……?」

「なんで『?』つけんだよ! もっと気楽にいこうぜ」

翔也は声を出して笑った。

クラスで人気の彼が、どうして僕なんかに話しかけるのだろう。

「お前さー、何の病気なの?」

「え?」

「だって、いつも入院してんじゃん。どこ悪いの?」

なんて答えようか。多分答えたくないっていえば追及はしてこないと思うけど……。

でもどうせあと2ヶ月だし……。

「なんか肝臓が悪いんだって」

「ふーん」

僕が思っていたより、ずっと薄い反応だった。

「なあ、遊びに行かね?」

「なんで?」

「いいじゃん! そういえばすぐそこにゲーセンあったよな?

放課後行こうぜ!」

約束だかんなー。そういうと翔也はどこかへ走っていってしまった。





お母さんに連絡すると、すぐに許可が出た。

「おもいっきり遊んで来な」とのことらしい。

放課後になると、翔也は僕を引っ張っていくような形で、ゲーセンへ連れていった。

「おい! あの太鼓やろうぜ!」

太鼓のリズムゲームだ。やったことはない。

「始まるぞ~」

いつの間にか僕の分のお金までいれていたようだ。

言われるがままに、僕は太鼓を叩き出した。


「なんでだー!」

翔也がゲームの画面を見て叫んだ。

「お前、ほんとに初めて!? 結構自信ある曲だったのにー!」

翔也は本気で悔しがっているようだった。

「次はあれだ! ほらこっち!」

僕は流されるように、ゲームを満喫した。


「いやー、楽しかったなあ」

もう辺りは暗くなっていた。

僕の家まで送ってくれるらしい。翔也は僕の隣を歩いていた。

久しぶりに楽しかった気がする。

僕は心の中で呟いた。

「また明日も行こーな」

別れ際にそう言われた。

その言葉にとても喜んだ自分がいて、僕は少し驚いた。


お母さんは僕に友達がいたことをとても喜んでいた。

「毎日遊んできてもいいんだからね」

お母さんは笑顔で僕に言った。

「きっと翔也の気まぐれだよ。毎日はないさ。おやすみ」

僕はベットの中で目をつぶった。でもなかなか寝つけない。

僕は明日が少し楽しみになっていた。


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