最終話

僕たちは放課後、いつも遊んだ。

たまに佑斗も一緒に混じって、カラオケとかゲームセンターとかに行った。


そんなことをしていたら、あっという間に2ヶ月が経ってしまった。


僕の体は、医者の言った通りに限界を迎えた。


死にたくない。死にたくない。

薄れゆく意識の中で、僕は必死にそう思った。

2ヶ月前にはなかった激情だ。

せっかく、せっかく、友達といえる人ができたのに……。

楽しいって思えたのに……。








目が覚めた。

真っ白な天井が見える。いつもの病室の風景だ。

お母さんが隣で泣いている。僕は幽霊にでもなったのかな?

「真人君、調子はどうだい? 手術は成功したよ」

何をいわれているのか分からなかった。

「ギリギリでね、臓器を提供してくれる人がいたんだよ。奇跡的に血液型や年も近くてね。

君は助かったんだ」

「え?」

なんだか、嫌な予感がした。

「誰が、誰が提供をしてくれたの? 誰が!」

僕は医者の胸ぐらを掴んで必死に聞いた。

医者は教えてくれない。

その代わりにお母さんが教えてくれた。

「鈴木翔也君……」

「今、翔也はどこに……?」

医者もお母さんも目をふせた。

僕はお母さんに詰め寄った。

お母さんは震える声で教えてくれた。

「真人の手術が終わった後、亡くなったそうよ」

自分の耳が何を聞いたのか分からなかった。信じられなかった。

「う、そだ……。そんな……。なんで……」

そんな急に。どうして……!

医者が口を開いた。

「実は、翔也君も病気だった。肝臓は健康だったが、その他の器官がろくに機能していなかった。真人君よりも危険な状態だったんだ」

信じられなかった。だって、彼はあんなに元気で……。

「手術なんてしたら、本当に死んでしまう。私は何回も止めた。でも聞かなかった。真人を助けられるんだったら、俺の命は安いものだと言っていた」

声が、出てこなかった。

お母さんが白い封筒を僕に差し出した。

「翔也君、真人に手紙があるみたい」

僕はおそるおそる受け取った。

一人にして欲しいと頼むと、医者とお母さんは部屋からでていった。


『真人へ

ごめん。この手紙を読んでるってことは、多分俺は死んだんだろうな。

お前には言っていなかったんだけど、俺も病気でさ、校舎の裏は、俺のお気に入りの場所だったんだ。だから、お前を見つけたときに嬉しくなったんだ。仲間だって。

クラスでの俺は自分を隠して生きてきた。平気じゃないのに、平気なふりをして。

でもお前の前では違った。なんか気が楽になるんだよ、不思議と。

真人はそんなつもりはないと思うけどな、俺は救われていたんだ。お前に。本当にありがとう。

話が少し変わるけど、この前一緒に遊んだ、佑斗はな、強面だけど、とってもいいやつなんだ。だから、俺がいなくなった後も仲良くしてやってくれな。


そうそう、生きてる意味っていうの?お前といて、そういうのが初めて分かったんだ。楽しいって思えたんだ。

だから、お前を助けるためなら、なんだってしたいって思ったんだよ。2ヶ月しか仲良くしてないのにと思うかもしれない。

でもな、お前との時間は人生最高の瞬間だった。健康な人って長く生きられるけど、たくさんの人の中で、そういう瞬間に出会えるのは本当に一握りの人だと思うんだ。

真人と出会えて良かった。本音を言うともっと早く話しかけてれば良かった。

俺の少ない人生の中で、こんなにも幸せな気持ちにしてくれたお前には、どうかこれからも元気で、幸せでいてほしい。

わがままな俺の、最後の願いだ。

よろしく頼んだぜ?親友』



涙が止まらなかった。

病気だったなんて、僕は全然気づけなかった。

親友だなんて呼ばないでくれ。僕はそんな素敵な人じゃない。

翔也は僕にたくさんのものをくれた。幸せをもらったのは僕の方だ。

僕は何も返せなかった。

だから、君の最後の願いを、優しい君の最後の願いを絶対叶えるから。

僕は窓を開けて空を見た。







そうしたらまた、ゲーセンに行こう。

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君と2ヶ月の秋 yurihana @maronsuteki123

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