情報を探ろう!
小気味良い音と共に、納屋の戸が勢いよく開かれた。
その小屋の住人は意気消沈して塞ぎ込んでいる最中だったのだが、これには流石に目を丸くした。事態を把握する間を与えずに戸を開けた人物が言う。
「さぁベリンダちゃん!デートに行こう!」
「……はぁ?」
陽光に黒い髪が棚引く。何時も通りの怪しい笑顔。
常に何かどうでもいいことを企み、それに執着する奇人。
そしてベリンダにとっては数少ない友人である狭霧華風であった。
/
まったく。
自分で解決すると言いながら、根回しは俺がやるのか。
そう思いながら双眸護兵は街中を歩いていた。なぜ解決まで護兵に託さないのか? という乙女心を一切解していないあたりは生真面目な護兵らしいことではあった。
街中とはいうが、実に怪しげであった。
本領を発揮するのは夜であるため、それでも控えめなのだろうが……
「おにいさん、おねえさん。生体義肢あるよ! ネバネバ、トロトロ、オプションでお安くヨ! ショクニンワザで安イ!」
うねうねとした触手を売りつけている毛深いイエティが妙な言葉で絡んできた。ついでに触手は物理的に絡んできそうだ。
「既に言うこと聞いてないじゃ無いですか!」
「ソンナことイワズに! ……あラ?」
とっ捕まえる勢いでイエティは護兵にしがみついて来ようとしたが、スルッと抜け出されてたたらを踏む。商品はその間に売り手に絡みつく。
「ァイエエエエ!」
生々しい音を奏でながら毛むくじゃらの巨人は全身の骨をへし折られた。終わると生体義肢? は護兵の側を向いていたが、敵わぬとでも思ったのかさっさとどこかへ行ってしまった。
「商品の方が賢そうだった……」
「痛いヨ! 助けてよおねえさん、おにいさん!」
人間の性別すら判断できないのに商売なんてやるものじゃないだろう。というか、全身の骨折られてまだ生きてる……
「あーギブ・アンド・テイク? オーケーです?」
「おウ?」
「骨治すから質問答える。オーケー?」
「おおう、オーケーオーケー! おにいさん、女神様!」
護兵は大学で異種族と出会うことが多かった。
そのため異種族の友人は大抵が人間と同等か、それ以上の知性の持ち主だった。そのためこうした半端に人間社会に適応した個体の相手は意外に苦手だった。
かつての繁華街は黒い霧事件で壊滅した。
しかし歓楽街が人の世に途絶えた試しもない……ということで他のどの区画よりも早い復興を遂げていた。利権を握っていた人間にもかなりの被害が出た後だったので、かなり奇妙な復興であるのがたまに傷だった。
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「ふ~ふんふ~ん。お、次はあの店にしよう。ベリンダちゃんは少年みたいな要素もあるから着せかえが実に楽しいねぇ」
「おい、カエ。なんなんだ一体!」
黒髪の巨乳美人である狭霧華風と、短い金髪で中性的な容姿のベリンダ・ミヨシの二人連れは街中でも注目を集めていた。
二人共、人間種の男であれば思わず振り返る容姿である。それに加えて世界の裏側に足を突っ込んでいる者特有の異物感がある。目立つ要素に事欠かない。
「だからデートだよ。普通の女らしく」
「普通って何だ……」
ぐったりとした様子のベリンダだが、華風のテンションのせいばかりでもない。万年貧乏である封印騎士にとっては信じられないことに、華風が選ぶ店は尽くが一見さんお断りのような高級店ばかりだった。
安い服か、甲冑でいることが多いベリンダには様々な服も気疲れの要因だ。
「おいカエ。気を遣われていることぐらいは私にも分かる。だが、これでは埒が明かない!」
「おや。ようやくこっちを見てくれたね? 結構結構、じゃあご飯にしようか?あの店でいいや」
華風が選んだのは、やはり入る気すら起きないようなお高そうな佇まいだった。
/
深淵。規格外に強大な正体不明の者共。
もっとも現在の“ヒト”がそう一括りにしているだけであり、単に強力な生物から神と呼ばれるものまで多種多様であり、種族とは呼べない。
その謎だらけであるということが単純に多くの人々を惹きつけているという事実がある。単なるマイナー好きから、明確な恩恵を求めてなど理由はそれこそ様々だが。
「ここだヨ、おにいさん。ヤツらのたまり場。気をつけてネ!」
どちらかというとお兄さんの方だ。そう納得させるまでに時間がかかったが、その程度の時間で全身骨折が治るとは流石の護兵も思ってもみなかった。
白い毛の塊は場所を教えるとあっという間に、走り去っていった。随分と高い身体能力だ。
教えられたのはビルの地階。外から直接出入りできる怪しげなクラブハウスだ。
壁には奇妙な目玉の文様が落書きされている。ビル自体も汚らしく、いかにもならず者達のたまり場である。
そして狭霧華風が護兵に指示したことによれば………
護兵が扉を開けた瞬間に、鋼鉄の腕が出迎えた。
それを察知していた護兵もまた手を出して、組み合う。まるでプロレスの手四つのような姿勢になる。
「熱烈な歓迎ですね。さいぼーぐ、というやつですか。全く部長の情報網には呆れます」
「あ? てめぇもそうだろ? 俺の腕とタメ張るたぁ良いパーツ使ってんな!」
「いや、生憎……」
やり取りの開始と同時に、護兵の腕が徐々に前に出る。
「生身ですよ。まだ授かった肉体の限界点を知らぬ内に取り替えるわけにもいかないのでね?」
「ああ!?
とも違うのだが。と護兵は説明しようとするが、辞めた。広義においては間違っているわけでもない。
相手は顔に入れ墨をいれたガラの悪い若者だ。
彼の言うことは当然だ。急速に発展しつつあるサイバネ技術によって誕生したサイボーグは戦闘型ならば鉄骨をも紙のように丸めてしまえる。それと生身で渡り合えるヒトがいるというのは、若者のまだ短い人生経験の中にはいない。
「さいばねてぃっくの義肢は非常に高価だ。seals社に恵んで貰いましたか?」
「変な発音してんじゃねぇ!」
躍起になって張り合う青年を護兵は痛ましく思う。
彼らは元々四肢を失い絶望していた人間だと、華風から渡された資料に書いてあったのだ。
「貴方ではなく、貴方の後ろにいる者にヘドが出る。しかし、こちらも依頼で来ているので……力比べに付き合う気もない」
「なんっ……!」
徐々に赤くなっていく鋼鉄の義肢。
家屋に被害が出ないように微細にだが、組み合った瞬間から護兵は餓鬼の熱を放射していたのだ。そしてとうとう接合部から煙が出始めると、青年は苦痛の呻きと共に膝をついた。
「深淵を信奉するマイナー教団、ゴッドアイズ。聞きたいことは山程ありますが……とりあえず次の召喚はいつですか?」
ライブハウスの奥から出てくる徒党を、鋼の意志力で睨みつけながら護兵は退かぬ姿勢を見せつけた。
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