其の七十五 実際のところ、生徒会室って、どこにあるのかも、何が行われてるのかも、よくわからない
――若人たちに与えられた一時の『自由』……、『放課後』の始まり――
白い歯をニカリと光らせる、『うちのクラスの学級委員』であり、『実は生徒会に入っていた男』……、神代と、
眼の周りのクマで『陰気』に拍車をかけている僕、『クラスのその他大勢A』……、水無月 葵と、
『死んだ魚のような眼』をしたゾンビ寸前の干物男、『クラスのその他大勢B』……、烏丸が、
――一般生徒がおよそ立ち入ることはない、『天上人』達が集う秘密の御城……『生徒会室』で、簡素なパイプ椅子に腰を掛け、長方形の木造テーブルを挟み……、相対していた。僕は、初めて清水寺を訪れた外国人観光客みたいにキョロキョロと辺りを見渡し、その景色を脳内へ流し込む。
……『生徒会室』……、入った事無かったけど……、なんてことない、『書類』やら『棚』やら『ホワイトボード』やら――、物がちょっと雑多なくらいで、他のフツウの『教室』とそんなに違いは無いんだな……、モノが多いからだろうか、ちょっとだけ、『手狭』に感じる。
ありきたりな感想を脳内に巡らせる僕の背後に……、
――音も無く忍び寄っていた神代が、ニカリと白い歯を見せる。
「……長丁場になるかもしれないからね……。『着ているコート』、預かろうか……?」
「……あ、ありがと……」
「……あざ~~っす」
ニカリと白い歯を見せる神代に対して、
おどおどと遠慮がちに『礼を言う』僕と、
ぶっきらぼうに、『労を労う』烏丸。
……生徒会室、『コート掛け 』まであるんだな。……っていうか神代、ただの『クラスメート』に対してこの『気遣い』……、どんだけ『出来杉』なんだ、コイツは……。
神代が、僕たちから預かった上着を『コート掛け』のハンガーへ丁寧に袖を通す。そののち、僕たちと相対するように木造テーブルの反対側へと移動し、パイプの椅子を無駄のない所作で引いた後、静かに『着座』した。
眠そうな眼でお茶をズズズッ、とすすっている烏丸を、僕は横目でチラリと見やる。
……烏丸、よく僕に『付き合う気』になってくれたな。普段は自分の世界以外一切興味を持たない、僕以上に『孤独を愛する男』だと言うのに……、この前の、『須磨のスマホ盗難事件』の時に僕を助けることが出来なかった負い目でもあるのだろうか。身体は『ゾンビ』でも、変に『情に厚い』所があるから、そこが良く分からないヤツだ……。
――果たして、『一対一』で会うのがダメなら、『二対一』なら良いだろう。
……脳内の如月さんに対して、僕が急ピッチでこしらえた、『とんち』みたいな『言い訳』――
……ちょっとズルいけど、勘弁して欲しい。
「――さてっ!」
トイメンに座った神代が、ニカリと白い歯を見せながら、パンッ、とダンスのコーチみたいに両掌を鳴らす。
「……あんまりのんびりしてても、仕方ないからねっ、……早速、……『本題』に移らせてもらうよ!」
ニコニコと爽やかな笑顔を浮かべる神代の表情が、
――何故だか、妙に、『不気味』に見える。
…
……いやいや、最近僕は過度に『神経質』になっているな……、あらゆる事に警戒すべき状況なのは間違ってないけど、なんか、他人の行動……、すべてに、『裏』があるように思えてならない……。
――こんな『思考』でずっと生きていたら、たぶん僕は、カート・コバーンと同じくらいのタイミングで早死にする。
「――最近、学内で……、『妙な噂』が流れている事は……知ってるかい?」
……偉大なロック・スターを追悼していた僕の耳に、ヌメリと流れ込んで来た、神代の『そんな台詞』。
僕は思わず烏丸の方に顔を向け……、果たして、烏丸も僕の方を見やりながら、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。そんな僕たちの様子を見ながら、神代はニコニコと笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「……その様子だと、『知らない』、みたいだね……」
言いながら、神代は木造テーブルの上に転がっていたボールペンを手に取り、片手で器用にくるくると回し始める。
「……実は最近、校内で『ポルターガイスト現象』の目撃証言が多発しているんだ」
…
…
…
――ッ!!?
「――えッ!!?」
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