其の七十六 仕事や勉強しながらクルクルボールペンを回している奴は、仕事や勉強に集中できていないと思う
――カランッ――
思わず椅子を引いて立ち上がった僕をみて、神代がクルクルと回していた『ボールペンを床に落とす』。烏丸も眠そうな眼をしながらギョッ、と少しだけ身を引いていた。
……あっ……。
「……ご、ごめん」
「……そ、そんなに驚いたのかい……?」
神代が珍しく目を丸くしながら、ひきつった笑顔を浮かべている。烏丸も訝し気な目線で僕の事を見つめる。
――僕の最近の『事情』を知らない者にとって、僕のリアクションはあまりにも『誇大』だった。
……や、やばい、何か言い訳しないと……。
「い、いや……、僕、そういう『オカルト』みたいな話、実は凄い好きで……、思わず嬉しくなっちゃって……、なんて~~、アハハ……」
――果たして、『下手』。
僕が先に見せたリアクションは、まごうことなく『驚愕』であり、『興味』なんて1ミリも感じさせない反応だったのは、誰の目からみても明白だった。我ながら酷すぎる言い訳……、しかして――
「……へぇ、そうなんだ! それは知らなかった……。いやぁ、やっぱり相談相手に『水無月君』を選んで正解だったよ!」
――果たして、『マジか』。
お人よしの神代は、僕の『不自然すぎる言い訳』に1ミリも疑いを抱いていないようだ。
…ちなみに烏丸は、眉を八の字に曲げて腑に落ちない表情を浮かべている。
「……それで、『ポルターガイスト現象』の、具体的な内容なんだけど……」
スッ、とボールペンを地面から拾いあげた神代が、神妙な顔を浮かべながら話を再開させる。
「……なにやらね、誰も居ない教室で机が一人でに動いたり、文房具がフワフワ浮いたり、ロッカーが勝手に倒れたり……、まぁ、よく言う『怪奇現象』ってやつが起こっているらしいんだ……」
神代の説明を聞いていた僕の首筋に、
――タラリと、一筋の汗が浮かぶ。
フワフワ浮かぶバスケットボール、
眼前に迫るカッターナイフ、
ギョロリと光る、二つの『赤眼』――
神代の口から語られたその『怪奇現象』は、
最近、僕の命を狙っていたとある『サイコ教師』の使う『異能力』のソレとそっくりだった。
――『赤眼』の能力は、『攻撃』、『手で触れることなく』周囲のエネルギーを操作し、『敵』とみなした対象へ物体を飛ばすことが出来たりするの――
喫茶『如月』のワンシーン、如月さんの台詞が、僕の頭に反芻する。
「……そんな不思議な現象の目撃情報が『生徒会』に集まって来てね。……もちろん僕たちも、最初は『イタズラ』だと思ってマトモに取り合ってなかったんだけど……、さすがに数が多くなってきて、本腰入れて調査しようということになったんだ」
神代が、何か情けないモノを見るような顔つきで、フッと自嘲気味に笑った。奴の掌の上でクルクルと回るボールペンが、妙に目に付く。
「……それでね、まずは目撃証言を整理しようということになった。……寄せられたのは十件くらいかな、その中で幾つか、『気になる共通点』がある事に気づいたんだ」
僕は、神代から発せられるその一音一音を聞き逃すまいと、ゴクリと生唾を呑み込んで次の言葉を待つ。……ちなみに隣りを座る烏丸は、ぬぼーーっと片肘をつきながら、1ミリも興味の無さそうな顔で、どこでも無い『宙』に目をやっている。
「……『怪奇現象』が発生する時、決まって近くに、一人の『女生徒』が居るらしいんだ……、具体的に『誰』であるかまでは掴めていないんだけど、その身体的特徴っていうのが――、内巻きの『ボブカットヘア』、丈の短いスカート、猫みたいに丸い眼……」
――ピタっ、と、クルクル不思議な舞を舞っていたボールペンが、その動きを止める。
神代は、スッと目を細めると、僕の事をジッと見つめ……、
「……誰だか見当つくかい……? 『水無月君』」
――少しだけ声量の抑えたトーンで、僕の事を『試す』。
……えっ……。
僕は、神代から問われた唐突な質問に対して、
――シンプルに、『あまりピンと来ていなかった』。
……ぼ、ボブカット……? 短めのスカート、って言われても……、そんな生徒、校内に『いくらでも居る』と思うんだけど――
「――『御子柴 菫』じゃないか?」
――果たして、逡巡している僕の耳に、
ゾンビのような呟きが、ボソッとねじ込まれる。
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