【長編】色眼ノ使命 ―甘酸っぱい青春の裏側には、いつだって命がけの戦争が潜んでいる―

音乃色助

【0ツ眼】~僕ノ追憶~

其の一 『人に聞いてもらいたい話』ってのは、〇〇が相場と決まっている


 突然だけど、『ポルターガイスト』という言葉を耳にしたことはあるだろうか。



 ――手を触れていないのに物が動いたり、パチパチと不自然な音が鳴ったり、何もない空間から火が起こったり――



 いわゆる『心霊現象』ってやつ。夏の怪談話や、オカルト特集をしているテレビ番組なんかでたまに取りざたされている程度で、フツウに生活していればまずお目にかかることはない現象だ。


 ――さて、上記を踏まえた上で、『僕』の思い出話に付き合ってほしい。







 あれは、僕がまだ小学校五年生だったころ……

 転校して間もない僕はなかなか友達ができず、独り寂しい小学校ライフを送っていた。そんな中、小学生にとって誰もが狂気乱舞する一大イベントがやってきたんだ。


 ――『修学旅行』――


 いつもの日常と切り離された空間で、保護者と離れて過ごす数日間を、僕は友達が居ないながらもワクワクした気持ちで臨んだ。

 同じ班になったクラスメート達とも打ち解けて、夜は先生に隠れてトランプなどに興じ、夢のような時間を過ごした。



 ……僕にも……、ようやく『友達』ができた――



 みんなが持っている当たり前の幸せを手にする事ができた僕は、この時間が永遠に続けばいいのにと強く願っていた。







 ――と、僕の思い出話が、「僕に友達が出来るまでのハピネス・ストーリー」なら、わざわざ人に聞いてもらおうなんて思わない。


 『人に聞いてもらいたい話』ってのは、『愚痴』か『不幸自慢』が相場と決まっている。

 そう、事件は起こってしまったのだ――







 修学旅行の三日目、その日のイベントは山登りだった。


 周りのみんなは「だるい」だの、「めんどくさい」だの、ブーブー不満を垂らしていたが、僕は久しぶりに出来た『友達』とする事なら、なんだって楽しめる自信があった。


 僕は同じ部屋で過ごしているクラスメート達としりとりをしながら山頂を目指した。楽しくて楽しくて、足の疲れなど気にならなかった。山頂にたどり着いてしまうのが、勿体ないな、と思ってしまうほどだ。


 湿り気のある大地を軽快に踏み歩きながら、

 5回目の『ず』から始まる言葉をうんうんと考えている最中――



 突如、『それ』は訪れた。

 一切の、『予兆』を感じさせる事無く、

 下腹部に発生した『異変』。

 



 ――僕はとつぜん、もうれつにおなかがいたくなった。



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