閑話 佐伯琴音。
私、佐伯琴音は兄、佐伯蓮の本当の妹じゃない。
なんとなく、そんな気はしていた。
昔のアルバムを見ても、私の写っている写真は一枚もないし、私の髪はお兄ちゃんと違って薄桃色をしている。
その事を、お母さんやお父さんに話すと、あっさり認めて、私が友人の子供である事を教えてくれた。私の両親が事故で亡くなっている事も。
けれど、お父さんもお母さんも私を本当の子供のように愛していると言ってくれた。
とても、嬉しかった。
この事を、当時10歳だったお兄ちゃんに話した。
嫌われるかな、軽蔑されたかな。
そんな心配も、お兄ちゃんの放った次の一言で全て吹き飛んだ。
「琴音は琴音だろ。俺の大切な妹だ」
その言葉に、どれだけ救われたか。
今度は、私が助けるから。まってて、お兄ちゃん。
***
「走れ、走れ!」
教官の怒号が飛ぶ。
世界にダンジョンができてもうすぐ一年が経つ。
私はダンジョン探索における戦闘員になるため、日々訓練漬けの毎日だ。
最初は両親に猛反対されたが、必死の説得の末、渋々認めてもらえた。
大まかな私の1日のスケジュールはこんな感じ。
5時、起床。
6時、早朝訓練。
9時、座学。
17時、全体訓練。
22時、就寝。
運動なんて、全くと言っていいほどしてこなかった私にはとても辛い日常だった。
けれど、不思議とお兄ちゃんのことを考えれば、勇気が湧いた。
「来い、佐伯!」
「はいっ!」
私は教官に向かって、得意の魔法を駆使して戦いを挑む。
教官は現役の自衛官らしく、私たち素人とは明らかに動きの質が違う。
でも、魔法はそんな非力な私を対等にしてくれる。
「アイス・エッジ!」
私は氷の刃をいくつも作り出し、教官に向かい放つ。
その影響で上がった土煙に紛れ、氷の剣を生成し、斬りかかる。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
「甘いっ!」
けれど、その全てが教官に見切られ、気がつけば私は空を仰いでいた。
「強くなったな、佐伯」
そう言って、教官は私に手を差し出し、起き上がらせてくれる。
「いえ、まだまだです」
そう、まだまだだ。
お兄ちゃんがいる東京ダンジョンは自衛隊の精鋭が挑み、返り討ちにされたと聞く。
もっと、もっと強くならなきゃーー。
そして、半年が過ぎた。
「首席、佐伯琴音」
「はい」
教官に呼ばれ、私は壇上に登る。
遂にここまで来た。
私は登った壇上の上で、拳を強く握りしめる。
ーー今行くからね、お兄ちゃん。
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