第4話 分の悪い賭け。
《固有スキル『挑戦者』が発動しました》
「は?」
突然のアナウンスに困惑する。
このスキルは基本的に自分より強い敵にしか発動しないと書かれていた。
つまり、目の前の豚オークは俺より強いということになる。
はっ、待て待て待て。
俺はボス部屋ここまで来るまでにそれなりの敵を倒し、レベルも10まで上がった。
それに、今までの敵はゴブリンかウルフしか出てきてない。
そんな急に敵の難易度が上がるのかーー?
刹那。
それは直感か、はたまた偶然か。
俺の顔の横を何・か・が凄まじい勢いで通り過ぎる。
そう頭で理解した瞬間、真後ろに大きな破壊音が轟いた。
「………………は?」
振り返れば、先ほどまでオークが持っていた巨大な鉈が壁に突き刺さっていた。
まるで、斬られたことに気づくのが遅れたように頬から血が滴る。
突然の出来事に漸く頭の理解が追いついたと同時に、凄まじい恐怖心が湧き出てくる。
剣を持つ手は震えてうまく握れず、脚はまるで地面に張り付いたように重い。
そんな時、頭の中にアナウンスが響く。
《スキル『恐怖耐性』を獲得》
《スキル『恐怖耐性』のレベルが上がりました》
淡々と流れるアナウンスの声に自然と落ち着きを取り戻す。
恐らく『恐怖耐性』の効果だろう。
「ふぅぅ……」
息を深く吐いて、思考をリセットする。
焦るな、落ち着け。
恐怖心がなくなっただけで、圧倒的な戦力差が変わった訳ではない。
目の前のオークは鼻をピクピクと動かして俺の方に視線をやる。
その顔はまさにネギ背負った鴨を見つけた時のように嬉しそうに嗤い、口から涎を垂れ流す。
「ブサイクな顔で笑いやがって、吠え面かかせてやる」
***
ドゴォォォォォンッッ!!!
ボス部屋一帯に轟音が轟く。
オークは鉈を振り回して俺を狙う。
鉈には楔くさびが取り付けられており、投げてもすぐにオークの手元に戻る。
幸い、オークの攻撃が大雑把な事と『挑戦者』スキルの恩恵もあって何とか交わしながらオークとの間合いを詰めていく。
ーー何かがおかしい。
ふと、頭を過ぎる違和感。
その違和感は、オークを観察する事で次第に疑問に変わっていく。
ーーどうして、攻撃がワンテンポ遅いんだ?
見てみれば、オークの攻撃が大雑把な原因はオークの攻撃モーションが俺が移動した後に始まることだった。
一体何故。
その答えは、最初のオークの仕草や攻撃後の仕草にあった。
あの、始めと攻撃後に行う鼻をピクピク動かす行動。
その疑問は次第に確信へと変わる。
もし、あのオークは目が悪く、匂いで俺の場所を判断しているとしたら。
最初の攻撃で俺への攻撃を外したことにも合点がいく。
「どうせ、試さなくても死ぬんだ」
俺は独り言を呟き、剣を構える。
タイミングは、オークが俺に攻撃を放った瞬間。
俺はその攻撃を避け、一目散にオーク目掛けて走る。
「今っ!!」
俺はオークの放った鉈を紙一重で躱し、一直線に走る。
オークは俺の今までと違う横ではなく縦の動きに動揺を示しながらも、怯ませようと咆哮を放つ。
「ブオォォォォォォッッ!!!」
ビリビリと空気が震える。鼓膜がはち切れそうだ。
けれど、俺は一心不乱に走り出した。
そして、ついにオークの目の前までたどり着いたーーーー瞬間。
オークの手元に鉈が戻る。
一瞬、オークが嗤った。
「想定内だボケ」
俺はそう呟くと、斬りかかる寸前に制服のブレザーを脱ぎ捨てた。
「この一日で文字通り俺の血と涙、汗が染み付いたブレザーだ」
ここからは分の悪い賭けだ。
オークの目が悪く、匂いで場所を特定しているということ。
そして、俺でなくブレザーに攻撃がいくこと。
「ブオォォォォォォッッ!!!!!」
再び咆哮。鉈を振り下ろした。
凄まじい轟音と共に、ダンジョンが、大地が揺れる。
「殺とった…………!!」
賭けに勝った!
俺はオークの攻撃の瞬間、思い切り上に飛んだ。
レベルアップや『挑戦者』スキルの恩恵もあって信じられないジャンプ力で一気にオークの首元まで飛びーー
一閃。
俺はオークの背後に着地し、遅れて俺の隣にオークの首が落ちた。
《レベルが上がりました》
《スキル剣術を獲得しました》
《スキル体術を獲得しました》
《称号『幸運』を獲得しました》
《『オークの肉』を獲得しました》
《ボス撃破ボーナス『職業選択の書』を獲得しました》
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