第3話 レベルアップの恩恵。

 ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイ!!



 目の前に現れた二匹のウルフは今にも俺を食い殺ろさんとグルグルと低く喉を鳴らし呻きを上げる。


 これは、先入観や偏見もあるが、大抵こういうモンスターは攻撃力が高くすばしっこいイメージだ。



 先に仕掛けてきたのはウルフ。

 俺の周りをクルクル周り、対照的な位置から二匹同時に仕掛けてくる。



「うおっ……!!」



 その攻撃をなんとか横に逸れて躱す。


 その瞬間、俺は自分自身に対する違和感に気付いた。



 なんか、異常に身体が軽いような……

 それに、ウルフたちの攻撃も十分早いはずなのに、自然と良く視える。



 息を深く吐いて、敵を見据える。


 攻撃を躱されたウルフたちは罰が悪そうに喉を鳴らし再び俺を囲む。



「来いっ!!」



 一斉に飛びかかってくるウルフ。

 先に目の前のウルフに対し剣を振るう。


 その一撃はウルフの首元に入り、まるで豆腐を切るかのように滑らかに、ウルフの首を落とした。


 そして、剣を振り下ろした勢いをそのままに、俺は背後から襲うウルフに回し蹴りを放つ。



 ーー以前の俺ならこんな芸当不可能だな。



 内心そう思いながらも、俺の回し蹴りはウルフの頭部に直撃。ウルフを失神させた。


 ピクピク、と痙攣するウルフの胸元に剣を突き立て、捻る。


 ウルフはすぐに絶命した。



《レベルが上がりました》

《アイテムをドロップしました。 『ウルフの肉×2 』『ウルフの毛皮×2』》



 レベルアップのアナウンスの後、やはり身体に不思議と力が湧くかのような感覚になる。



「やっぱり、レベルのおかげだよな……」



 いくら毎日ランニングをしていたと言っても、そんな劇的に運動能力が上がるとは思えない。


 つまり、他の要因があるわけで、それは十中八九ーー。



「ステータス」



【サエキ・レン】Lv.5


【職業】なし

【体力】265/265

【魔力】1150/1150

【魔法・スキル】

 なし

【固有スキル】

挑戦者、アイテムボックス

【称号】

 なし




 案の定、ステータスを確認すればレベルが1から5に上がっていた。



「ん?」



 ステータスを眺めているとあることに気づく。



「なんだこれ……?」



【固有スキル】の欄にある、『挑戦者』と『アイテムボックス』という文字。

 アイテムボックスはゲームや漫画でお馴染みなので大体の予想はつく。けれど『挑戦者』というスキルは見当もつかない。


 徐に、固有スキルの挑戦者を指で触れる。

 すると、目の前に説明書きのようなものが書かれたウィンドウが表示された。



『挑戦者』


 自分よりレベルの高い相手と対峙した際にステータスが1.5倍になる。



 なるほど。わからん。



 ステータスが1.5倍になると言ってもステータスウィンドウを開いて確認できるのは体力と魔力のみ。他、攻撃力や防御力と言ったステータスが明確なわけでないためいまいち掴みどころがない。


 けれど、謂わばこれは火事場の馬鹿力。不利な戦闘を助けてくれるようなスキルの為、俺がダンジョンで生き残れる確率も上がる……と思う。



 無いよりましだ、程度の認識で俺はステータスを閉じ、ドロップアイテムをアイテムボックスにしまう。


 この時、俺はまだこのスキルの重要さを理解していなかった。




***




 ダンジョンに潜り半日ほど経過した。


 ウルフを討伐後、その後も数匹のモンスターと遭遇したが順調に歩みを進め、現在4階層まで進んでいた。


 4階層も変わらず、出てくるのはゴブリンやウルフばかり。

 変わったところといえば単体ではなく、群れで出てくることだ。


 しかし、これも問題なく処理していく。



「そろそろ休みたいんだがな……」



 ダンジョン内は魔物の巣窟のため、気が休まる場所がない。

 どうにかして安全地帯を確保せねば……



 5階層まで降りると、そこには1〜4階層とは違い、一際大きな扉が聳え立つ。



「これってもしかして……」



 恐る恐る、目の前の扉を開ける。


 すると、そこに現れたのは体長2メートルほどの体躯に褐色の肌を持つオーク。手には大きな鉈なたのようなものが握られている。



 ーーボス部屋。



 一瞬でそう悟った俺はとある願いを込めて、腰の剣を抜く。



 コイツを倒せば安全地帯があります様に!

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