第2話 はじめての戦闘。


 松明で照らされた目の前の洞窟ーーもといダンジョンはどこか重々しい雰囲気を醸し出しており、思わずゴクリ、と喉が鳴る。


 天井を仰げば、米粒ほどの余りにも小さな光。


 ここが、俺の知っている《ダンジョン》であるなら、クリアすることで地上に戻ることができるはずだ。



 ーー悩む。



 食料も水もない状況でこのまま救助を待つのが正しいのか。それとも前に進むことで地上を目指すのか。



 一頻り悩んだ後、俺は立ち上がり、ダンジョンへ向けて一歩を踏み出した。


 ここで飢えて死ぬよりマシだ。



 ふと、ダンジョンの横に立ち、気づく。



 「これはーー剣と盾?」



 洞窟の横には『ご自由にお持ちください』の壁紙が貼られており、その下に明らかに安そうな剣と盾が立てかけられていた。



「ないよりマシか」



 俺はそれらを手に取り、ダンジョンへ足を踏み入れた。





***





「凄いな……」



 思わず漏れた言葉は深い闇の中へと吸い込まれていく。

 ダンジョンに一歩踏み入れると、そこは見た事のない鉱石が至る所にあり、それらが発光し、幻想的な風景を作り出していた。



「本当に、ダンジョンなんだな」



 まるで、物語の中にいるようなーー。そんな気分になる。けれど、ここが《ダンジョン》という事を忘れてはならない。



「ギギィッ!!」

「うおっっ!!」


 突然現れたのは緑色の肌、鋭い歯と耳を持つ小鬼。



「ーーゴブリンか」



 右手には棍棒が握られており、一定の間合いを保ちながらグルグルと喉を鳴らし威嚇してくる。


 幸い、ゴブリンは一匹で周りに群れがいる様子もない。


 なんとも都合のいいゴブリンだ。


 謂わばこれはチュートリアル。

 雑魚ゴブリン相手に苦戦するようじゃこの先やっていけない……はず。


 憶測をしているうちに、先に動いたのはゴブリン。

 棍棒を掲げ、特攻してくる。



 ーーーー遅い。



 走るゴブリンは小学生くらいの速さで走り、棍棒を振り下ろす。



 これくらいなら、余裕で避けられーー。



 ドゴォン、という轟音がダンジョン内に轟いた。

 ゴブリンの振り下ろした棍棒は地面に食い込んで陥没している。



 …………勘弁してくれ。



 あんなのが当たればひとたまりも無い。

 相手が雑魚モンスターと侮っていると足元を掬われる。


「ふぅぅ……」と深く息を吐いて、まっすぐゴブリンを見据える。



「いくぞ」



 そう小さく呟いて、俺は剣を片手に走り出す。

 勝負は一太刀で決着がついた。


 走り出した俺のすぐ後に、ゴブリンも間合いを詰めようと走り出す。


 狙うは首筋。

 俺は剣を振りかぶり、ゴブリンとの間合いに入る。その瞬間、俺はその場で停止、一歩引いた。


 すると、俺に合わせてゴブリンが振り下ろした棍棒が空を斬る。



「手足が短いから、ここまでは届かないだろ」



 振り下ろした後の隙を逃さず、俺はゴブリンの首にーー


 一閃。



「ギギィッガッ………グゥ」



 鈍い感触が手を伝う。

 口から血を流し、首をはねられたゴブリンはその場で倒れ込み、絶命した。



「はっ……はぁ……はぁ……」



 初めてと言える、命のやり取りにどっと疲れが押し寄せる。主に精神の。



《セカンドキルを確認 固有スキル『アイテムボックス』を獲得》

《レベルが上がりました》

《アイテムをドロップしました『ゴブリンの肉』》



 空気の読めないアナウンスに俺はため息を吐く。



「こんなんで生き残れるのか俺……」



 思わず、座り込んだまま天を仰ぐ。

 そんな時ーー。



「グルル………」



 どこからともなく獣の鳴き声のような声がする。



「マジかよ……」



 声の方向をみればそこには狼ーーこの場合ウルフと呼ぶべきか。

 毛並みを逆立てながら、こちらを睨む二匹のウルフがいた。



「勘弁してくれや」



 俺は再び剣を取り、今の状況にため息をついた。





***





 同時刻、アメリカ。



《ファーストキルを確認 固有スキル『勇気』を獲得》



「案外ダンジョンってチョロいのね」



 そう呟くのは美しいブランドの髪を持ち、モデルのようなその体系で信じられないほどの大剣を振るい、モンスターを狩る少女。



 彼女の名はシャルロット・アッシュベリー。いずれ剣聖の職を手にする者。





 

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