第8話 舟木 英司の介護

『俺に言われてもなぁー。』


お楽しみ最中に大場からのライン。

ちょっと迷惑。


『誰から?』

俺の隣で裸で寝そべる知美が言った。


『大場リーダー。』

俺は茶化し気味に言った。


俺達二人は今市内の安ホテルにいる。


知美はひだまりに夜勤専属で入っている派遣だ。


『めんどいね。愚痴?』


『うん。ジョーさんのね。』


『あの人相変わらずなの?』

知美は下着をつけ始めた。

やっぱり抱くなら二十代だなと思う。 


普段年寄りの世話をして嫌でも年寄りの裸体を目の当たりにしている。


そして職員も平均年齢が50オーバー。 


36の自分や二十代の所などが居て何故?と思うが、圧倒的に高齢のパートが多いのが原因だ。


『相変わらずもなにもあの人は一生ああでしょっ。』

俺も笑いながらパンツを履いた。


『ねえ、あの人って童貞?』


『そうだろなーきっと!介護士だぜ?介護士。』

そう言って俺はまた笑った。


『英司くんもじゃん!』


『じゃなくて、あの人は真の介護士なのよ。』


『なに?真の介護士って。』



『もうね、正義の味方なのさ。残業も早出もありあり。利用者第一。そんな正義の味方の目的はどんな会社にもいて、会社がブラック化することに貢献してんの。』



『つまり社畜?』

知美は話が早い。

だから楽だし、少しは好きだ。


『そうそ。そして「介護士」は皆社畜。会社の家畜じゃなくて社会の家畜。国は「あんまり金あげないけどやってくれる?」って言ってて「しょうがない。やったげるよ。」って言って誰もやりたがらないことをやる。それが正義の味方介護士。』


『だから英司くんも介護士じゃんっての!』

知美は笑いながら肩をパンチしてきた。


『俺も中卒じゃなかったらな~。』


俺は煙草に火を点ける。


『中卒じゃなかったらなにしてたの?』


『んー…看護師かな?』

己で言ってて笑えてきた。


『その発想が介護士じゃんっ!』

二人とも吹き出した。



『じゃあ知美は?生まれ変わったらまた介護やる?』


『やらないかなー。』


『じゃ何やる?』


『んー、あぁでも獣看護師とかやりたいかも。』


『はい残念~、それも介護士だよ。』

知美の額を指で小突く。


『じゃあ普通にママになりたいかな。』


『あ~それも介護士だなぁ!』


『逆に介護士じゃない仕事ってなによ!?』

知美は俺の頬を拳で軽く小突く。


『お金になる仕事?かな?』

俺はぼんやりと言った。


『でも看護師もそんなに儲かるわけじゃないよ?』

知美が言う。


『やりてーことねぇんだよなー。かと言って狭き門目指して頑張る気もなかったからこの現状なのかな?ぶっちゃけそんなやつ多いよ、同僚。』


そう、俺みたいに「やりたいことがないから」と、選択を拒否した奴には明るい未来はない。

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