第7話 寺井 史伸の介護士
「明日もよろしくですー。では寝ます。」
晩酌中、大場からの愚痴メッセージが一段落した。
同僚、部下にラインなんか教えるもんじゃない。
俺は職場を一歩出たら職場の事は忘れたい。
とは言え皆よく辞めないなとつくづく感心する。
俺は二十代で傷害事件を起こして半年のお勤めに行き、当然の如く職を追われ、仕方なくハローワークの薦めで介護の資格を取り、経験を積んだ。
そして気付けばひだまり一の古株、そして主任になってしまっていた。
そして今日この頃改めて思う。
介護業界は一度滅ぶべきだと。
まともな人間なんてマジで入ってこないじゃあないか。
この間雇った所という糞野郎は何なんだ。
虐待を隠しきれてないんだよ。
隠蔽に加担する立場の人間の身にもなれ。
幡も幡だ。
経験はあるのだろうが会議では好き放題言いやがって。
「ああしたほうが効率が上がる。こうしたルールを作るべきだ。」
果ては記録物の電子化を進めろとまで。
そんなことはとっくのとうに分かっている。
けど変わらないのがこの職場なんだよ。
金がないから記録物の電子化も出来ないし効率上げようにも対応出来ない年寄り職員も多いじゃないか。
効率向上の前にお前等はクレームをなくせ。
とは言えない。
表向きは話の分かる主任でいなくては。
何故なら人が足らないから。
人材が足らない。
なのに補充が利かない。
ならば手持ちの駒でやっていくしかない。
社会的に優秀な人間は普通は介護をやろうとはあまりおもわない。
何故なら給料が安いから。
汚物を扱うから。
仕事がキツいから。
段々ストレスで酔いが覚めてきた。
冷蔵庫を開け、四本目の発泡酒を取り出した。
愚痴を呟くためにツイッターを開いた。
「介護業界が滅ぶべき理由その①人材が確保できない。スタッフの高齢化が進み、業務の改善などが進まない。また来るもの拒まずで採用せざるを得ない。」
「介護業界が滅ぶべき理由その②昇進意欲がかき立てられない。昇給はほとんどなく、中間管理職になろうが手当は雀の涙。」
「介護業界が滅ぶべき理由その③国が本気で目を向けていない。政治家始め金持ちのほとんどは民間の有料老人ホームに入るつもりだから社会福祉法人など介護保険で賄う施設のことなど眼中に入れていない。」
「介護業界が滅ぶべき理由その④法人設立のハードルは実は低く、無能な経営者が多い。」
と連続で投稿した。
毒を吐いたら少し気が楽になり、酔いも回った。
明日もなんとかやれそうだ。
皆を励まし円滑に現場を回す。
「何事もない」が最良。
「何も起こさず、職場に何も求めない」のが俺の考える良い「介護士」だ。
『明日も介護士(へいたい)達に頑張ってもらわねえとなー。』
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