第3話 神路 健太郎の介護士
(今日はついてる。)
俺はそう思った。
経験豊富な新人介護士と言うのは実に使い勝手がいいからだ。
幡の人柄もさることながら、経験年数も10年と言うからほぼ手放しで任せられるだろう。
とは言え初夜勤だ。
教えることは教えにゃあならない。
17:47白鷺ユニット
俺は食事介助を始めた。
通常の新人なら食事介助の様子も見てやらないとならないが、幡ならその必要もないだろう。
白鷺に専念することにする。
なにせリーチが掛かった花ちゃんもいる。
『ほら花ちゃん、口しっかり開けて!あーーん!』
柳原花は可愛らしい名前とは裏腹にトカゲを彷彿させる面構えと認知症末期に有りがちな無表情で可愛らしさは皆無だ。
何より便臭の凄まじさに耐えかねる。
気の毒だが食事介助を中断してまでオムツを見てやるほど人間出来てはいない。
花ちゃん、頑張って耐えてくれ。
『花ちゃん寝ないの!』
俺は耳元で叫び花ちゃん肩を平手で何度か叩く。
花ちゃんは一口食べては目を閉じ、寝入る。
傾眠と言うやつだが、これは実は怖い。
食べ物を詰まらせ易いからだ。
『ほら黒田さんも食べて!』
白鷺は食事介助の対象は二人だが、この花ちゃんこと柳原と黒田シズエのみなので苦にならない。
18:21
食事介助終了。上等だ。
白鷺、雲雀を俺達夜勤が担い、大瑠璃を植野と言うリーダーが遅番として担っている。
幡は経験豊富だし、植野は口出し無用だ。
と言うより関わりたくない。
(あのデブは自分のやり方曲げねーからなぁ)
俺は早々に食器を片づける。
配薬は既に食事中に済ませている。
と言うより砕いて食事に混ぜている。
人権派はこれに対し顔を顰めるが、薬を異物と勘違いして吐き出してしまう認知症利用者に飲ます手段が他にあるのか。
『ほらっ。ボチボチ明かり消すから皆部屋入ってー。』
認知症の軽い利用者など意思のある利用者たちは俺が部屋へ追いやると顔を曇らす。
自身の居室にテレビがない利用者がほとんどだからだ。
申し訳ないがそれは家族を恨んでくれ。
早く部屋に入ってくれないと次の業務が押すんだ。
俺は何人かの利用者の排泄介助及び着替えの手伝いを済ませると雲雀へ行き幡に声をかけた。
『幡くん平気かいー?』
『大丈夫でーす。』
幡はナースグローブを外し、排泄物が染みこんだパットを汚物入れに入れているところだった。
幡も幡で早々に食事介助を終わらせて就寝介助に移ったらしい。
実に手際良し。
感心感心。
時間に余裕が生まれそうなので気まぐれに大瑠璃も覗いて見た(ひだまりは縦長の造りで、北側に大瑠璃、南側に雲雀、挟まれて白鷺と並ぶ)。
大瑠璃の植野は、これまたいつとの「趣味」に没頭していたのか食事介助がまだ半分も終えていない。
100キロ超と思しき巨大に汗を湿らせながら食事介助をしている。
植野は遅番で20時には退勤なのに19時現在でこのザマではまたサービス残業ではないか。
ご苦労なことだ。
(つくづく「介護士」だなお前。)
俺は心の中でそう、植野を軽蔑した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます