後日談

第100話三ヶ月目の浮気


 最近、シャールーズが構ってくれない。


 結婚して三ヶ月、それなりにうまくやってきたと思う。もともと幼馴染みみたいなものだし、結婚前も二人でよく色々なことを一緒にしていたので、お互いのこともある程度理解している……そう、思っていた。少なくとも、私は。


 だが、最近、シャールーズがまったく後宮に帰ってこなくなったのだ。結婚してから、プライベート用の住居として、サルヴェナーズ宮が後宮となった。毎晩サルヴェナーズ宮にシャールーズは帰ってきて、私と一緒に過ごしていたのだが、徐々に帰りが遅くなってきたと思ったら、ついに、帰ってこなくなった。

 後宮に帰ってこないというのは、すぐに噂として広がり、「異国の女性では相性が悪かったのだ」とか「すぐに第二夫人の用意をするべきだ」とかそういう噂がたっていることを、親切に侍女達が教えてくれた。

 まったく、全然、親切のつもりじゃないでしょうけど!


 結婚してからあてがわれた侍女達は、シャールーズが神の子でも恐ろしくないと気がついたようで、お手つきになろうと、あの手この手でシャールーズを籠絡しようとしていた。


 この国は暑いので、侍女達も割と薄着をすることが認められている。なので、ベリーダンスの時のような衣装を着てシャールーズに接するのだ。

 シャールーズは悪い気はしていないようで、侍女達を注視していることもあった。


 対抗して、私があの衣装に挑戦することはありえない。手足だけではなくお腹まで丸出しなのだ。足を見せることでさえ、ベッドの中だけだというのが常識であるランカスター王国出身の私にとって、途方もなく高い壁だった。



 そう……思っていたんだけれど。



 シャールーズが帰ってこなくなってしまって、ただ待っているだけなら、……その……誘惑してみるのも悪くない、かなって思って……ベリーダンスの衣装のような服を作った。


 だって!シャールーズが浮気をしているって、憶測だけなのに、ぐずぐず悩むぐらいなら、ちゃんと本人に尋ねつつ、誘惑した方が性に合ってる!


 白地にレースやスパンコールのついたキャミソールに、シースルーの裾が絞られているパンツ。試しに試着すると、とってもセクシーだった。

 今日は、後宮で食事をすると伝言を受け取ったし、この衣装で会いに行ってみよう。



 シャールーズは、執務室で執務中ということだった。隣の宮まで行かなければいけないので、さすがにこの格好は恥ずかしいので、マントを羽織る。

 執務室では、アフシャールとシャールーズが何かを話し合っているところだった。


「ちょうど休憩にしようと思っていたんだ。どうぞ」


 私の来訪は、先に知らせてある。アフシャールが迎え入れてくれた。シャールーズの従者達がお茶を入れる。


「俺は関係書類を持って、行ってくる。お二人さん、ごゆっくり」


 アフシャールは、いくつかの書類の束を手に、執務室を出て行った。


 シャールーズは、私を手招きし自分の膝の上に座らせる。シャールーズの膝の上で向かい合う。シャールーズの顔色が少し悪い。あまり寝ていないようだ。

 これは、浮気と言うより本当に、執務が忙しいみたいだ。


「どうしたんだ、マントなんか着て」


 シャールーズが、不思議そうに言いながら、私のマントをめくった。私の着ている服を見て、目を見開いたまま、シャールーズが固まる。


「どう?似合う?」


「全員出て行け。ジュリアと二人きりにしろ」


 固まっていたシャールーズは、復活し鋭い声で命じる。

 従者達はシャールーズの命令に速やかに従って、部屋を出て行った。


 シャールーズは、誰も居なくなったのを確認して、私のマントを脱がした。私のことを頭の上からつま先までなめ回すように、熱心に見ている。


「疲れすぎて、願望がそのまま幻覚に」


「シャールーズ、現実だから!」


 私がぺたぺたとシャールーズの頬を両手で優しく触れると、シャールーズが私の手に自分の手を重ねる。


「本物か」


「そう、帰ってこないから、会いに来たの」


「ご褒美か……!」


 なんだかよく分からないけれど、シャールーズは感動しているみたいで、私をぎゅっと抱きしめて頬をすり寄せてくる。シャールーズの落ち着く良い匂いがする。

 シャールーズの手が、背中をまさぐり始めたので私は隠し持っていた魔法石を発動させる。


「おさわり禁止!」


 ニルーファルからもらった石なんだけれど、この発動コマンドどうにかならないのかな。もらったときには、「バリエーションが増えて燃えるわよ」と言われたんだけれど、ニルーファルはどこでこんなのを見つけてくるんだろう。


 魔法石の力が働いて、シャールーズの両手が背もたれ側に回された。ちょうど、両手をロープで縛られたような格好。たいした拘束力じゃ無いらしいので、シャールーズが本気になれば、簡単に解除できるはずだ。

 今のところシャールーズは、面白そうに私のことを見ている。


「私の姿、魅力的?」


「もちろん」


 シャールーズの視線が、普段より露出されている私の胸元へと降りる。


 わかりやすい人だな。


「浮気は?」


「するわけないだろう」


「第二夫人を用意してるの?」


 キスしそうなぐらい顔を近づけてシャールーズに尋ねる。シャールーズはそのまま無言で顔を近づけてきたので、シャールーズの膝から降りた。


「逃げるな、ジュリア」


 シャールーズは、大人しく拘束されたままで居てくれている。


「答えないと、しばらく私はお預け」


 そう言いながら、私はシャールーズの前でゆっくり一回転した。この服、体のラインがすっごくよく分かるし、背中は殆ど覆う布が無い。どうやら、この服装、シャールーズは好きみたいだし、効果はありそう。


「第二夫人なんか用意していない。ここ最近忙しいのは、灌漑用水路の工事計画が行き詰まっているからだ」


 シャールーズは、懇願するように今まで忙しかった理由を話してくれた。


「私も、手伝えるかもしれないのに?」


「それは……悪かった。ジュリアには、ここの生活にもっと慣れてから手伝ってもらおうと思っていた」


「王の渡りが無いと、侍女達が好き放題に言うから、肩身が狭いの」


「侍女達は、入れ替えだ。お前を第一夫人と、俺の唯一と忠誠を誓う者だけにしよう」


 私は、一歩シャールーズに近づいた。シャールーズが魔法石の拘束を解いて、私を引き寄せて、再び膝の上に座らせる。


「散々、誘惑されたんだ。堪能させてもらおう」


「え?執務は?」


「アフシャールは戻ってこない」


 私は、シャールーズに緩く拘束される。この後、執務室でその後、後宮へと移動して会えなかった分を取り戻すかのように二人で過ごした。

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