第69話シベルの悩み
式が終わって、ガーデンパーティが始まった。主役であるお兄様とゾーイ様はたくさんの招待客に囲まれている。私もそれに混じって、お兄様とゾーイ様にお祝いを述べる。
お兄様とゾーイ様は領地で生活するらしい。気軽にお兄様に会いに行けなくなってしまった。
シベルの様子が気になるので、たくさんいる招待客から、シベルを探し出す。隅の方で同年代のご令嬢達と固まっているかと思っていたら、やっかいなのに絡まれていた。
周りの招待客達がちらちらとその騒ぎに視線を向けている。
「何故、もっと笑わないんだ。こういうとき、アリエルは笑顔で場を和ましているんだぞ」
どういうわけか、エディット・フィッツウィリアムがシベルにいらだちをぶつけているようだ。ここは祝いの席だぞ、ちょっとは控えて欲しい。
シベルは、兄のウィリアムズとは行動を共にしていないようで、一人でエディットの怒りを受け止めているようだ。
周りの貴族達も面白そうに見ているだけだ。アングルシー家とフィッツウィリアム家の仮の婚約者同士がうまく言っていないというのは、貴族の間でも周知の事実で、格好の噂の的だ。
残念なことに、シベルは「寝取られ女」と蔭で囁かれている。寝取るも何も、最初から何も無い二人なのだが、噂をする方は事実はどうでも良くて、面白ければ良いようだった。
「失礼、ここはお兄様とお義姉様のお祝いの席なの。そういうことは、止めていただけないかしら?」
私は、シベルとエディットの間に割って入った。いつかと同じようにシベルを背後に庇う。エディットは私の登場に、「なぜ、平民がここに?」と場違いなことを呟く。
私のことを覚えておいてくれて光栄だけれど、いままで私のことを平民だと思っていたことに驚く。
「ジュリア・デクルーですわ。フィッツウィリアム様、お祝いの席を騒がしくするようなら、出て行ってくださる?」
エディットは、私のことを頭の先からつま先までジロジロと見た後、後先考えずに口から言葉を発した。
「出来損ないの侯爵令嬢か」
あたりが、しんと静まりかえる。誰もが思っているけれど、誰もが侯爵家が怖くて口に出せない悪口の一つだ。平気で口に出来るエディットは、本当に、こらえ性が無い。
「たとえ出来損ないでも、私はデクルー侯爵家の者ですわ。子爵家の分際で、その言い方不敬ですわ」
そもそもフィッツウィリアム家は子爵家でアングルシー侯爵家の令嬢と婚約できたのは、フィッツウィリアム家の当主が王宮の近衛騎士団の団長で、優秀だからだ。それなのに、何を勘違いしているのか、デクルー侯爵家に喧嘩を売るような発言を、デクルー家の敷地内でしているのだ。
「すぐにそうやって身分を笠に着る。アリエルはそのような考え方は不平等で古いといっている。俺もそう思っている」
「貴方の思想はどうでもいいのです。お祝いの席で不用意にレディに言いがかりを付けているのが非常識だと、私は申し上げているのです」
「それは、この女が無愛想なのが悪い」
すでに自分のモノだと思っているのか、自分より身分の高い令嬢を指でさしている。野次馬達の仲にフィッツウィリアム家の当主を探したが、見当たらない。このバカはどっからこの家に侵入したんだか……。
「貴方の顔を見るのも不愉快ですわ」
ここは、デクルー家の敷地内。不愉快な客をつまみ出す権利ぐらい私にだってある。私は側に控えていた従僕に合図を出して、エディットを中庭から追い出してもらった。エディットは、抵抗しているが従僕の他に警護をしているデクルー家のお抱えの兵士たちも加わっているので、ひとまず追い出せるだろう。
「シベル、久しぶりにお話ししましょう。別室に案内するわ」
私の言葉に数名のメイド達が走って会場を出て行くのが見えた。シベルと話ができるようにどこかの空き部屋の準備をしてくれるだろう。
シベルの兄のウィリアムズと兄の友人枠で招待されているアミルが、心配そうにこちらを見ているのが遠目に分かった。
どうやら、お兄様は友人達に囲まれてお酒をたしなんでいたみたいだ。
「ウィリアムズ様もお呼びしますし、久しぶりに楽しみましょう」
私は好奇の目にさらされているシベルに寄り添い、お屋敷の方へと向かった。
●○●○
アンナが空き部屋に、ガーデンパーティで出されている軽食とお菓子と紅茶を持ち込んでくれた。私とシベルはソファに向かい合って座った。
お互いに無言で、紅茶を飲むとシベルがわずかに震える声で、お礼を言った。
「エディットって魔法石の効果が出てきたんじゃ無いの?」
「出てきたから、ああなったの」
特製の魔法石のおかげで魅了の魔法からは解放され、以前ほどアリエル・ホールドンに心酔しなくは為った。しかし、フィッツウィリアム家からシベルとの仲をどうにかしろと言われたエディットは、今度は逆に何かとシベルにつきまとうようになった。
シベルにつきまとった挙げ句、アリエルとの違いを指摘し、ダメな女であると言いがかりをつけるのだそうだ。
アリエルより学業の成績がいいからダメ、アリエルより魔法が使えるからダメ、アリエルのように愛想が無いからダメ、アリエルのように可愛くないからダメ、アリエルのように可愛い服装をしていないからダメ、など、とにかく何でもアリエルと違っている点はだめなんだそうだ。
なんだよ、結局アリエルの虜のままじゃないか。
ただ、アリエルと結婚するというのは諦めようとしているらしい。だから、シベルに注文をつける。
「ホールドン嬢は、エディットには曖昧な態度をとり続けていて、もしかしたら結婚できるかもとほんのわずかでも希望をもてる状態なの」
男女の恋の駆け引きは、魅了魔法なんかなくてもアリエル・ホールドンは上手そうだ。単純なエディットは手管手練れにころっと参っているのだろう。
「それで、シベルがエディットの事が好きだと、エディットはなぜか思い込んでいる」
「私は、そんなこと一言も言っていないのだけれど」
「嫌いですは言った?」
「言う前に、ああいう風に一方的にいらだちをぶつけて、一方的に去って行くので会話が成り立たないの」
これ、絶対結婚してもうまく行かないやつ!
「アングルシー様はなんて?さすがにこの状態で、結婚がうまくいくとは思ってらっしゃらないと思うのだけれど」
シベルが答えようとしたとき、シベルの兄のウィリアムズとアミルがやってきた。
あれ?なんでアミルまで来たの???
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます