第70話お忍びの王子様
「アミルまで来るなんて、お兄様の相手はいいのですか?」
「あいつは、他の客達に囲まれてるよ」
アミルとウィリアムズはソファにそれぞれ座った。ウィリアムズはシベルの隣。アミルは私の隣で、ウィリアムズと向かい合っている。
「ウィリアムズ様、シベルとフィッツウィリアム様をどうしようと思ってますか?」
この婚約が成立するのは、ジョシュア王子に選ばれないということが前提だ。王子はまだ婚約者を決めていないし、あと一年ほど婚約者を決めるには猶予がある。
「父上は、現状をよしとはしていないが、シベルの歩み寄りが足りないと思っている」
ウィリアムズの表情は苦々しそうだ。父親の説得に失敗しているのかも知れない。
「歩み寄りとかの問題でしょうか」
人の話を一方的に聞かない人に、歩み寄りはとても難しい。
「もう、そんな段階ではないと思うが。フィッツウィリアム家と婚姻を結んでもアングルシー家としてのメリットは、たいして無いと僕は思っているんだけどね」
「父親同士が仲が良いんだっけ?」
「同級生だそうだ」
友人同士だから子供達を結婚させよう、当然うまくいくはず、程度に思っているんだろうなぁ。
今回は、権力使って追い出せたけど学校ではそうもいかないだろう。シベルは、人の言うことをちゃんと聞いてから反論しようとするタイプみたいだし。
「ごめんなさい、私……なかなか、言い返せなくて」
シベルは辛辣なことも言うけれど、基本的には聞き役に徹することが多いため、人の発言に被せていうことは苦手なのだろう。おしゃべりなマーゴと仲が良いのは分かる気がする。
「人の話を良く聞くことが出来るのは、良いところだと思うよ」
アミルが珍しくまともなことを言う。シベルは、アミルの言葉に嬉しそうに微笑んだ。
来月には、アリエル・ホールドンがナジュム王国に留学生として来るために、王立魔法学校からはいなくなる。もしかしたら、その影響でエディットの様子も変わるかも知れない。
ちょっと落ち込みぎみのシベルを、ウィリアムズとアミルが励ましている。この二人に任せておけば大丈夫かな。
私は、パーティー会場に戻ることにした。
パーティー会場は、熱気と興奮に包まれていた。いまさらこの輪の中に入っていける気がしない。お兄様とゾーイ様に挨拶をして、私は自分の部屋に戻ろうかと考えていたとき、ゾーイ様がブーケトスをすることになり、女性達が色めき立ちながらそわそわと待ち構えている。
私の位置からは、ゾーイ様は遠いので普通であれば飛んでこない。でも、騎士団で鍛えている人だし、万が一にも飛んでくるとかありそうだ。
ゾーイ様がブーケを投げる。結構飛距離はあったけれど、私のいる位置よりだいぶ前で、ブーケが落ちた。私の知らない招待客の女性が、ブーケを手にして片手に握り拳を掲げて喜んでいた。そんなに勇ましい姿を見せたら、お目当ての男性に、幻滅されてしまうかも知れないんだけどなぁ。
「ブーケ、欲しかった?」
良く聞き慣れた、この会場にいるはずの無い人の声がした。私は驚いて声も出せないで振り返った。
「殿下……」
お忍び姿のジョシュア王子が、そこにいた。
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