ゲームスタート

第36話ゲームはすでに始まっている


 結局、ダラム家の当主が、中毒症状を引き起こす薬物を使ってぼろ儲けしていたかどうかは、分からず仕舞いだった。お父様もお兄様も、深追いするのは避けたみたいだ。やはり、王妃のご生家という立場は強い。分かったことと言えば、ダラム家の当主は、「国を憂う紳士たちの社交場」という名目の「金糸雀倶楽部」という紳士倶楽部の主催をしているということだけだった。


 紳士倶楽部は、同じ思想や趣味嗜好別に集う貴族男性に社交の場を提供している。「金糸雀倶楽部」もその一つで、目的は「国を憂う青年たちの集まり」ということらしい。詳しいことは、女性である私には分からないのだけれど、パーティできるような部屋があったり、様々な本が置かれている書斎があったりするみたいだ。


 ディオゲネス倶楽部なんて、シャーロック・ホームズで出てきたけれど、ああいう類いのものだろう。




○●○●


 私は非常に困っていた。


 再び夏になって、私は十五歳になった。学校へ入学の年である。例年通りギティに遊びに来て、しかし違うのはシャールーズにも、ファルジャードさんにも会えなかったことだ。ギティから王都に遊びに行っても良かったけれど、砂漠を越えるのはそれなりに準備が居る。国内旅行と言っても簡単に移動できない。


 それでも錬金術の練習したり、バザールを覗いたり、お兄様とルイと遊びに行ったり充実した日々を送っていた。さて、そろそろロンドニウムに帰るぞ、という時になって、砂嵐が発生した。


 ギティを直撃した砂嵐は、去年ほどでは無かったのでたいした被害は無かったが、ギティからランカスター王国の王都ロンドニウムを繋いでいる公路でも砂嵐が発生していて通れないらしい。帰国する日を数日ずらせばいいか、と予定を変更してそろそろ一週間になる。


 砂嵐は去ったようだけれど、公路に点在していた休憩地のオアシスに甚大な被害が出たらしく、旅をするには向かない状態らしい。復旧まであと一週間かかるということらしいから、私は二週間学校に通えていない。


 公路のオアシスに被害が出たことは、狼煙をつかってランカスター王国にも伝えられたそうだ。


 まさか、入学式に出られなくなるとは思わなかった。

 入学式は、ゲーム開始シーンでもある。入学式でジョシュア王子と知り合ったヒロインの、「こんな格好いい男の子いるんだ、ラッキー」という心の声のあと、オープニングアニメーションが流れるのである。


 王子相手に「格好いい男の子」「ラッキー」という軽さに、プレイしていた前世の私は驚いた。オープニングアニメーションで、攻略対象者が次々と現れ、ヒロインを取り囲み、最後にヒロインが手を伸ばしたところで終わる。


 「光と闇のファンタジア」というタイトル通り、王国の闇の部分を解き明かして、攻略対象者とラブラブになってエンディングを迎える。


 私は全ルートプレイした。逆ハーレムルートや、みんなで仲良しこよしの大団円ルートは存在しなかったはず。ヒロインは、必ず誰かを選ばなければならなかった。


 入学式でジョシュア王子との出会いイベントが見れたら、ヒロインが誰だか分かったんだろうけどなぁ。入学して二週間目なんだけど、全攻略者との出会いイベントが終わった辺りなんだろうか。

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