第35話お兄様の知恵


 お兄様とルイと一緒に警邏の詰め所に、体当たりしてきた男を引き渡した。そのときに、支離滅裂なことを言っていたことも伝えた。


 たまたま詰め所に居た警邏の人は、私たちが子供だからと言って邪険にするのでは無く、ちゃんと何があったのか尋ねてくれた。その間も、男は支離滅裂な発言をしたり、暴れようとしていたので、落ち着かせようと男を椅子に座らせて、ロープで椅子の背にくくりつけた。


「確かに、ちょっと言動がおかしいですね。何を言っているのか理解できないです」


 警邏の人が、落ち着いたらこの男の素性をきいて怪しいつきあいが無いかとかそういうことを調べてくれることになった。


「では、調査結果をデクルー屋敷に届けてください」


「え?ということは、あなた方は……」


 警邏の人、私たちが貴族子弟だなんて思わなかったのかも知れない。普通は、本人が被害者だとしても、こういう風に捕まえた相手を自分の足で差し出しに行くのは、あまりないだろう。


「父のデクルー侯爵は、今回のこと、気に留めると思いますよ」


 お父様は、基本的に子供たちに優しい。ルイが酷い目に遭いそうになった、と知ったら今回の事はとても知りたがるだろう。お兄様は、警邏の人を説得できたみたい。


「承知しました。報告書をお持ちしましょう」


 この報告書にあの男の素性や交友関係、薬物の使用の有無などが記載されて、我が家に届くみたいだ。薬物の使用があるのに、公的機関が何の捜査もしていなければ、うまいこと買収されてしまった、ということが分かるし、捜査していればごく一部の警邏たちが、賄賂を掴まされているのだな、ということも分かる。



 意外だったのが、報告書の持ってくる早さである。三日目にはすでにお父様が報告書を手に私たちを呼び出していた。


 まずは、ルイに怪我をしていないか確認され、次に私。最後に、悪人を殴り飛ばしたお兄様が心配された。次に、報告書の内容を私たちに開示してくれた。


 書いてあることは、当たり屋の男は当たり屋行為をして小金を稼いでいる悪党で、最近薬物にも手を出し始めたらしい。薬は、決まった人物から買い求めていたようだ。薬を販売した男は、ダラム家に出入りしている男。


 ここにも出てきたわ。ダラム家。王妃の生家で伯爵家。砂嵐の日に私に絡んできた男もダラム家に関係があるみたいな事を言っていた。


 ダラム家は、なんとなく、きな臭い。


「この報告書は、二部作成したらしい、一部は上司への定期報告書として他の事件と一緒に報告、もう一部がここにある。上司に出した定期報告書は、上司が握りつぶしているようだな。薬物の捜査について何もしていないらしい」


 やっぱりそうなのか。公的権力が賄賂受け取って、薬物の被害は見て見ぬ振りしてる。


「なかなか面白い報告書を読ませて貰った。イーサン、これをうまく使ってみろ」


 お父様は、お兄様に報告書とは別に何か書かれた書類を手渡した。お兄様は、書類に目を通すと楽しそうに目が輝き出す。


 私は気になって、お行儀が悪いと思ってもお兄様の見ている書類を覗き込んだ。


 そこには、薬物の売人と薬物の入手ルート、組織的な犯行ではないかという調査結果が書かれていた。


 お父様、どうやってこんなこと知り得たのかしら。




 お兄様は、その資料を丹念に読み込んでギティ内で流行っている中毒性のある薬物を売りつけて金を荒稼ぎしている組織を見つけ出していた。


 どうやら、少人数ながら精鋭だったようで、錬金術で作った中毒性の高い薬を高額で売りつけて、お金を荒稼ぎしていた。


 ほんとうに、錬金術ね。


 お兄様は、お父様の執務室にすぐに向かい、何かをお父様と相談していた。私とルイは荒事になるからと、これ以上関わることを、止められてしまった。





 次の日、お兄様から中毒性の高い薬物販売組織を一網打尽にしたこと、組織のトップは、ダラム家の使用人だったことを教えて貰った。


「トカゲのしっぽ切りだったかも知れないけどね」


 組織のトップがダラム家の使用人、というのはおかしい気がするとお兄様は言った。


「使用人は、犯罪組織の長をするほど暇な仕事ではないよ。もっと高貴な人を庇った結果かもしれない」


 いくら錬金術が盛んなナジュム王国でも、誰でも中毒性の高い薬物を作り出せるわけではない。高度な技術が必要で、普通の人はそんなこと知らない。そういった情報を使用人が集められるかというと、仕事もあるので難しいだろう。


 たしか、ダラム家の当主は、王妃の弟が継がれていたはず。


 なるほど、ダラム家の当主を庇ったというのは、案外本当のことかも知れない。

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