第34話足がかりをみつける


 公的権力まで汚職されていると、手立てが打ちにくい上に、ここは異国である。お父様の力を借りて、とかそういうことはできない。


 だけれど、気がついてしまった事を知らん顔するのも寝覚めが悪い。ファルジャードさんは、王立の研究員になるぐらいなのだから、そこそこ地位の高い人なのだろう。そこからどうにかできないかなぁ。


 明日、パルヴァーネフに旅立つといっていた。連絡は一応取れる。住所を知っているので、パルヴァーネフの住まい宛てに手紙を出せば良い。


 密売について調べて、結果をファルジャードさんに伝えてみれば良いか。明日、すぐにどうこうできるほど証拠があるわけじゃないし。



 次の日、私はなぜか、お兄様とルイと三人でギティのバザールに来ていた。本当は、一人で街をうろうろしながら、密売についての情報を集めようと思ったのだが、夕食時に、お兄様が、「たまには、三人で遊ぼう」と言い出したのだ。


 本当に、勘の良いことだ。


 断る理由も思いつかなかったため、こうして三人でバザールをひやかしている。もし、これで何かが起こったら、絶対、このメンバーの中にトラブルメーカーがいると思われる。


「どこに目を付けてんだ、テメェ」


 案の定、人混みを避けきれずに、すれ違う人とぶつかってしまったルイが、ぶつかった相手にすごまれている。



 ぶつかった相手は、多く見積もっても30歳前後ぐらいの青年で、どこか顔色が悪い。子供に八つ当たりするなんて、大人げない。


 ルイは、気丈に男を見上げているが、顔が青ざめている。無理も無い、子供が大人の男に睨まれ、見下ろされていれば誰だって、ああなる。


「弟が失礼した。お怪我は?」


 通行人たちが遠巻きに見ている中、お兄様が堂々と弟と男の間に体を割り込ませた。私は、ルイを自分の方へと引き寄せる。


「怪我した肩が当たって、痛くてしょうがねぇ。貴族の坊ちゃん、医者代払いな」


 あまりの言いがかりに、私は呆れてため息をついた。ルイの身長は、まだ十二歳で大人の男性ほど背は高くない。肩と肩がぶつかるなんて、できないのだ。頭と肘がぶつかる程度だろう。


「失礼ですが、弟は肩にぶつかれるほど背は高くありません。どなたかと、お間違えでは?」


 お兄様、凄まれているのにまったく意に介していない。穏やかな微笑を称え、育ちの良いお坊ちゃんの雰囲気が全開だ。


「うるせぇ、いいから金をよこせ!それとも……」


 男は言葉を途中で終わらせ、私の方へ視線を向けて、手を伸ばしてくる。


「このお嬢ちゃんを貰っていってもいいんだぜぇ?」


 私の手首を掴んで、男が引っ張る。私は自分が対象になるとは思っていなかったので、足をつんのめらせ男の胸に額をぶつけた。


「ほう、その手を離したまえ」


 お兄様の顔から笑みが消えた。男は、それを余裕が無くなったと勘違いしたのか、下碑た笑い声を上げて、私を抱き寄せる。


「安心しろ、しっかりかわいがってやる」


 あんまり調子に乗っていると、とんでもないことが起きると思う。


 男は、私が恐怖で震えていると思っているのか、かがみ込み私に頬ずりする。その瞬間、風が吹き込み男が宙に舞い上がる。


 お兄様がいつの間にか、間合いを詰めて男にアッパーを食らわせたのだ。お兄様ったら、魔法で身体能力を強化して本気で殴ったんだわ。


「汚い手で、俺の妹に触るな」


 二人のやりとりを見ていたギャラリーから、歓声があがる。お兄様は、私を引き寄せてルイと一緒に併せて抱きしめた。


「ありがとう、お兄様」


 やっぱり、私のお兄様は世界一だわ。素敵。


「ごめんなさい、兄上」


 ルイは、なんだか泣きそうだ。お兄様は、私とルイの頭を撫でて、もう一度ぎゅっと抱きしめてくれた。


 因縁をつけてきたこの男を、このまま道ばたに伸しておくわけにもいかないので、私たち三人で警邏に引き渡すことにした。ここら辺の商店では有名な当たり屋なんだそうだ。


 バザールの商店の人にロープを貰って、お兄様が伸びちゃった男を縛り上げて連れて行く。途中、なんだか支離滅裂なことを男は言っていた。


 これって、薬物中毒者の反応だったりしないかしら?顔色悪いし。


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