猫と王子

第24話新たな王子の登場


 どんよりとした日が続いている。ランカスター王国に冬がやってきたのだ。この国は、冬の天気はあまりよくない。曇りがちで、雪がちらつく。王都では、毎年雪が積もる。


 秋口から始まったお后様教育と、ジョシュア王子とのデートは継続中だ。雪が積もったらしばらくは自由に身動きが取れないため、両方ともお休みになる。


 最近、雪がちらつくことが多くなってきたので、本格的に雪が降る前に、お兄様が寮から戻ってこれれば良いのだけれど。学校はもうすぐ冬休みで、寮を出て実家に帰る人が多い。


 今日は終業式で、お兄様はそのまま汽車に乗って王都に帰ってくる予定だ。両親が馬車で駅まで迎えに行っている。私とルイは留守番だ。


 前世では、冬にクリスマスを祝うという習慣があったけれど、この国にクリスマスはない。新年を祝うだけだ。クリスマスに匹敵するような宗教上のお祝いの日は、夏至にある。


 ただ、夏至の日は毎年ナジュム王国にいるので、夏至の日の祭りを祝ったことは無い。盛大なお祭りであることはゲームで知っているけれど、実際に体験はしていない。


 どうやら、お父様達が帰ってきたみたいだ。馬車止まりに、馬車が一台止まった。


 玄関ホールに迎えに出ると、家中の使用人達とルイが両親とお兄様の出迎えを待っていた。


 お父様、お母様、お兄様が入ってきて、その隣にみたことのない少年が立っている。使用人達が馬車から荷物を下ろして、屋敷の中へ運んでいった。


「お兄様、おかえりなさいませ」


 私は、礼儀作法通りにお兄様に挨拶をして、その隣に立っている少年に視線を向ける。とても整った顔立ちだけれど、この国の人では無い。日に焼けた肌に、黒髪という特徴なら、ナジュム王国か、アーラシュ帝国出身である可能性が高い。


「友人のアミルだ。雪がみたいと言うから連れてきた」


「はじめまして、アミルと申します」


 ランカスター王国式の貴族の挨拶をした。家名を名乗らないと言うことは、知られたらまずいのか、もともと名字の無い身分なのか。


「彼は、アーラシュ帝国のラージャの親族なんだ、この国で言うと王子かな」


 アーラシュ帝国の王子!


「ジュリア・デクルーと申します。アミル殿下」


 正式な礼をして王子を出迎える。


「レディ、ジュリアと呼んでも?」


「はい、アミル殿下」


 アミルは、私の手を優しく取ると、指先に軽く自分の唇を触れさせる。ランカスター王国では将来を誓い合った仲の二人や、異性の親友同士が行う挨拶だ。


 つまり、馴れ馴れしい。


 私は、取られた右手を強引に引っ込めて、アミルを睨んだ。


「毛を逆立てたビッリーの様で、可愛いですね」


 にこにことほほえみを浮かべながら、なおも手を伸ばそうとしてくるアミルと私の間にお兄様が割り込んだ。


「妹に勝手に触れるのは止めて貰おうか」


 ルイも私のすぐ隣にやってきて、そのまま手を繋いで私を引っ張った。


「姉上は猫じゃ無いぞ」


「君もビッリーみたいだ」


「僕は、ルイだ」


 まさに毛を逆立てた猫のような反応をしているルイの頭を、アミルはなでなでしている。図太く度胸のある人もいるものだ。


「これから暫くよろしく」


「アミルは、冬休みうちに滞在することになったから」


 お兄様は、私をアミルの魔手から庇いながら言った。

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