第25話ボードゲームで見えるモノ


 まだ、雪は積もっていない。いつも、年が明ける前に雪が積もるので、そろそろ大量の雪が降ってくるだろう。


 アミルは陽気な性質で、すぐにうちの家族とも使用人とも仲良くなっていた。お兄様と勉強をしていることも多いけれど、私やルイの遊び相手にもなってくれている。


「お兄様、ね、いいでしょ?」


 お兄様とアミルは課題が一段落したといって、私とルイと四人で応接室でボードゲームをしている。


 私は、駒を動かしながら、お兄様に一緒に街へ遊びに行こうと誘った。雪が積もったら身動きを取るのが大変なのだ。今のうちに、街へ市場調査に出かけたい。


「そうだねぇ……。父上に許可を貰うから、明日みんなで行こうか」


 お兄様は、ボードゲームの私の領地から『石炭のカード』を奪い取った。


「あ、ちょっとお兄様!」


「手加減はしないよ。これで領地がまた広がる」


 四人で、お互いの領地を広げていく攻防をするボードゲームをしているのだけれど、お兄様が滅法強い。ルイも私もお兄様の手のひらにコロコロ転がされている。

 アミルもそこそこ強いのだけれど、最後の詰めがあまいのか、お兄様には負けていた。


「ジュリアは良い筋をしていると思うけれど、目の前のことにとらわれすぎかな。もうちょっと先を読んで長い目でみないと、勝負に勝てない」


「先のことを考えて、『石炭カード』を蓄えていましたのに!」


「兄上、僕は?」


「そうだな。ルイは、ルールを勉強しようか。基本的なルール以外にも、このゲームは複雑なところがあるし。定石がわかったら、もっと領地が広がるよ」


「流石だな。領地経営を継ぐだけあって、このゲームは得意分野か」


「アミル殿下だって、王子様でしょう?」


 私の疑問に、アミルは豪快に笑い飛ばした。


「俺は、王位継承権はだいぶ低いんだ。男兄弟だけで7人もいる」


 アミルは、私たちがいるときだけ、一人称が「俺」に変わる。だいぶ打ち解けてくれたみたい。


「父王は、10人の妃がいる。俺と同腹は、姉ひとりと、妹一人だ。王族のまま生活するっていうこともできるが……」


 アミルは、そこで言葉を留めて、私を覗き込むようにしながら蠱惑的に微笑んだ。


「俺は、商人になってみたいね」


「確かに、商才はありそうだな。今のところ一番儲けているのはお前だ」


 お兄様が呆れたようにため息をついた。ボードゲームで使う木製のおもちゃのコインは、アミルのところに山のように積まれていた。


 お兄様は換金できそうなカードを持ったままでいるので、もう少し手持ちの木製コインは増えそうだけれど、私とルイは、これ以上増やすのは難しい。


「首席殿にそういっていただけると、光栄の限りだ」


「よくいう」


 お兄様とアミルは、本当に仲が良い。学園でもこんな調子で授業を受けていそうだ。


 私もはやく学園に行ってみたいなぁ。死亡フラグについては解決してないけれど、やっぱり、楽しそう。



●○●○


 お父様をお兄様が上手に説得して、街で買い物をすることになった。


 予め、お兄様には平民達の生活が見たいということを伝えているので、何かを買うためにお店に向かうというよりは、いろいろな所を歩いて、情報を収集することを目的としている。


 アミルも、ランカスター王国の平民の生活に興味があるみたいだった。特に、アーラシュ帝国は冬でも暖かいので、外に出るときにコートを着ないと寒かったり、部屋を暖めるための暖炉とか、寒い冬を快適に過ごす道具というのが心惹かれるみたい。


 私たちが住んでいる王都ロンドニウムは、ランカスター王国随一の大都市で、石造りの家々が立ち並ぶ。国内最大の教会もロンドニウムにあって、美しい尖塔は、ロンドニウムのシンボルだ。王都の中心地は、大河が流れていて、川の畔は整備されていて憩いの広場になっている。


 日曜日になると、教会の周辺や街の中心地でマーケットが開かれて、国中の新鮮な野菜や、魚介類、肉類が並ぶ。


 最初に訪れたのは、雑貨屋さん。アミルが滞在するなら、もう一つボードゲームを買おうということになった。


 できれば、私でもわかりやすい、簡単なルールがいいんだけれど……。

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