第21話パジャマパーティーは暴露大会


「殿下、それは私に好ましくない点がある、ということですか?」


 是非とも、ご寵愛ランキングなんてものが発表されないようにしたい。もし、ランキング1位だったらどうする。私が3位というのであれば、積極的に発表して欲しいけれど、確信が無いので博打すぎる。


「そういうことを言うつもりじゃないよ」


 王子はちょっと驚いた表情をしている。


「ここ一ヶ月、三人の候補者全員に会って、全員可愛いからみんなと結婚したいなって」


 王子は、目を伏せて頬をぽぽぽっと赤くした。清廉で純真な乙女がここにいる!


「僕、三人のこと好きになっちゃった」


 大変可愛らしい告白ではあるが、その中から私を抜いてほしいものである。この砂糖菓子のような甘い雰囲気の中、他の二人の令嬢の反応が気になった私は、残りの二人に視線を向けた。


 あ、見なきゃ良かった……。


 シベルもマーゴも目が据わっているのである。十二歳とはいえ女だからね、ハーレム妄想している奴の評価が低くなるのは仕方が無い。やっぱり、浮気は許せないポイントだろう。


 せっかくの美少年王子からの愛の告白だというのに、三人とも目が据わっている状態である。


「ね、だからこれからも、こうして四人で会って遊びたいな」


 三人と結婚したい、というとハーレムが思いついてしまうが、この発言だと王子は「好きな人たちに囲まれて遊びたいな」という「恋」の文字も入っていなさそうな状態だ。


 初恋未満というか、お気に入りの玩具に囲まれたいと思っているというか。


 そうすると、ゲームでの王子は初恋がヒロインになるのか。なにそれおいしい。


 おいしいけど、私が処刑されるのは納得いかないので、是非とも私のいないところで幸せになって欲しいなぁ。


 なんだか生暖かい視線を感じて周囲を見渡すと、お茶会のサポートをしてくれているダウンシャー家のメイドや、王子の護衛の人たちが、微笑ましいものじっくり見ている表情をしていた。


 この見世物になっている状況をどうにかしないと。


「殿下、私たちも仲の良い友人達と会えるのはとても嬉しいですわ」


「本当?よかった。これからもよろしくね」


 王子の笑顔が子犬が褒めて貰ったときの表情によく似ていた気がしたけれど、気のせいだろう。


 マーゴが「なに余計なこと言ってんだこの野郎」という酷い表情をしていたが、王子様の発言を無下には出来ないでしょう。


 みんなでボードゲームをして遊んでいると、王子が王宮へ帰る時間となった。私とシベルも家に帰る必要があるのだけれど、マーゴが引き留めた。


「どうせだったら、私たちでパジャマパーティしましょう」


 マーゴの目が、「帰るんじゃねぇぞ」と力強く訴えていた。


「いいなぁ、そういうのって女の子らしくて可愛いよね」


 王子は、ペットでも見ているかのようにデレっとした笑顔で私たちをみて、別れの挨拶をすると王宮の馬車で帰って行った。


「貴女方のおうちには、連絡したわ。さあ、婚約者候補同士、仲良くしましょう」


 マーゴは、有無を言わさない迫力で私とシベルを自分の部屋へと案内した。


 マーゴの部屋はレースひらひらの乙女という部屋では無く、飾り気の無いシンプルな調度品に囲まれていた。でも、よく見ると質がとても良い。良いセンスしてるなぁ。


「さあ、ジュリア、申し開きがあればお伺いいたしますわ」


 ソファに座ってさっそくマーゴが切り出した。


「申し開きと言われても」


「殿下のハーレム計画に賛同なさったじゃ無いですの」


「あれ、断れると思って?」


「そこをなんとかしなければならないのに、ぱっと答えてしまうから!」


 マーゴは王子の頼みを断ろうとしていたらしい。なんて度胸のある人だ。


「大丈夫だって、どうみても恋愛の好きとは違ったよ」


「そうはいってもー!」


 マーゴは、よっぽど断りたかったらしい。しつこく食い下がってくる。


「マーゴは、殿下以外の殿方が気になっているの。婚約を解消したいのよ」


 シベルは、マーゴの吊し上げにあっていないため、涼しげな表情で紅茶を楽しんでいる。


「なになに!マーゴってば、どこの殿方?」


 思わぬ援護射撃に、私は逆にマーゴにたたみかけていく。


「ちょ……ど、どこからそんな話を。わ、私は、別に……その」


 相手に強く攻められると弱いのか、マーゴは頬を赤くして、私から顔をそらしてしどろもどろになっている。


「ね、誰?」


 マーゴの反応楽しいなぁ。これ、初恋っぽいよね。今までマーゴのそんな浮かれた話を聞いたことないし。


「ジュリアは知らないかもしれないわ」


 シベルは誰だか知っているのか、くすくす笑っている。


「あ、シベル、何を言って!私は、別にフォーサイス様の事なんて……!」


 フォーサイス、なんか聞いたことある。あ、クラレンス・フォーサイスかな?攻略対象者だ。フォーサイスが「妖精の地」という意味で、攻略対象者もちょっと妖精みたいに浮き世離れしているから、妖精ンスとファンの間で言われていたんだっけ。


「フォーサイス様って、クラレンス・フォーサイス様のこと?伯爵家の」


「その通りよ」


 何故か、マーゴの代わりにシベルが答える。マーゴは顔を真っ赤にしながらシベルにクッションを投げつけていたが、すべて避けられて、全弾私が被弾した。


「あのぽやぽやに、心をぽやぽやにされて、ぽやーっとした話ばかりしているのよ」


「ぽやぽやとは、何よ。マイペースでのんびりした素敵な人ですわ」


 シベルとマーゴは仲が良いみたいで、恋バナもしているみたいだ。えー……私とはしてくれないのに。


「と、とにかく、殿下の婚約者に選ばれるのはただ一人。それ以外の候補者が行き遅れにならないように、候補者の時であれば、他の婚約者を探してもいいことになっているの」


 え……?うち、そんな人探してたっけ?お父様もお母様も、そんなこと言っていない。


「それで、そのフォーサイス伯爵家からお話をいただいて、お会いしたの」


 それでマーゴは、シベル曰く、ぽやぽやクラレンスに心を奪われた、と。


 なにそれ、美味しい。勝ち気なマーゴと妖精クラレンスのカップリングとか。そういえば、ゲームでクラレンスを攻略するときに邪魔をするのは、マーゴだったな。


 すごーくマーゴを応援したいけれど、これ、応援しちゃうと、殿下の婚約者になる確率が5割になって、死亡フラグをがつんと建築することになりそう。


「シベル、殿下の婚約者になりなよ」


「お断りよ」


 シベル、容赦ないなー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る