第20話ダウンシャー家のお茶会


 76年前の貴族年鑑にはグリュー家が載っている。ということは、載っている年と載っていない年の境界線が分かれば、何が起きたのか調べやすい。


 今年は、王国歴256年。76年前は、王国歴180年。二分木探索をしていたのだから、王国歴181年から206年の間に、境界線が存在する。


 だいたいの真ん中の値だと、王国歴195年の貴族年鑑を調べてみる。まだ、グリュー家の名前は存在している。王国歴200年の貴族年鑑には存在してない。王国歴198年には、存在していなくて、王国歴196年にもグリュー家は存在してない。


 ん……?境界線がでてきたぞ。王国歴195年にはグリュー家が存在した。王国歴196年にはグリュー家が存在していない。ということは、195年か196年に何かがあって、グリュー家はお取りつぶしになり、貴族年鑑に名前が載らなくなったのだ。


 グリュー家の載っている195年の貴族年鑑の記載を見ても、普通の伯爵家のようだ。何か特別な特産品があったとか、金山当てた、とか財政面で裕福なこともなさそうだ。


 今から60年ぐらい前だと、お父様とお母様も生まれていないはずなのに、グリュー家の事は知っていた。貴族社会では当たり前のように知っていなければ成らない教養なのだろうか?


 両親から、そんな話は聞いたことが無い。まだ、貴族の教養を学んでいる子供だから知らないだけなのだろうか?それとも、学校に行って習ったのだろうか?


 魔法を教えて貰うための学校とは言え、通う生徒の大半は貴族なので、一般的な教養を身につけるための座学もある。共通認識として、習うような出来事が起きたのだとしたら……?


 王国歴195年あるいは196年に何が起こったのかわかればいいのだけれど。


 歴史書が収められている棚で、探してみたけれどそう都合良くみつかるわけがない。何が起きたのか分かっていないと、その起きた何かを解説した本を探し出すことができない。


 年表とかに載ってれば良いのだけれど。それに、年表ってあったっけ……?


 歴史の教本に載っていそうなものだが、前世の時につかった歴史の教科書と違って年表はなかった。もしかして、別途、年表を手に入れるという販売方法なのだろうか。


 今度、この部屋を管理している、お父様の補佐をしている執事のジョンに、年表があるか聞いてみよう。図書室の本は全部、お父様のものだし。



○●○●


 ダウンシャー家から、お茶会の招待状が来た。ダウンシャー家が主催だが、実際のところは、王子様と婚約者候補の方々との交流会といったメンバーが招待されている。


 月に1回、婚約者候補の家で。他の婚約者候補の方々と王子を招待して、交流を深めたいというのも王子の希望だった。確かに、王子の婚約者候補に選ばれなかったとしても、貴族社会にいる以上、交流を持たないなんて事は無い。最初から仲良くしておいて、婚約者候補に外れても穏便に、王家を支えてくれる人材になって貰わないと困る、と言ったところだろう。


 2ヶ月以内には、我が家もこのように招待状を出して、お茶会の主催をする番が回ってくる。早めに辞退できる理由をみつけて、婚約者候補から外れたい。


 華美すぎないドレスを着て、ダウンシャー家へと向かう。手土産として、シェフに焼いて貰ったマドレーヌを持参している。


 馬車がダウンシャー家の馬車止まりで止まった。ダウンシャー家の使用人が、私が馬車から降りるのを手伝ってくれた。


 夏の暑さが和らいできたと思ったとたん、急に気温が下がり、外でお茶会を開くには天気の良い昼間を選ばないと難しい季節になってきた。


 今日は室内でのお茶会かな、と思っていたが、どうやら外でのお茶会みたいだ。秋の薔薇が見頃だからだろうか。


 中庭を通って、案内されたのはガラス張りでできたサンルーフだ。中庭の景色も見れるし、室内なので風が遮られて暖かい。サンルーフの特徴を生かしたお茶会の会場だ。


 主催者であるマーゴは、席に着いていて私がサンルーフに入ると歓迎してくれた。


「好きな席に座って」


 サンルーフには、丸いテーブルが中央に置かれ、そこに4脚の椅子が均等に並べられていた。テーブルの中央には、背の低い花瓶に生けられた花が飾られている。


 サンルーフが日の光をたくさん取り込んでいるからか、外よりも暖かいし、部屋の中が明るくて気持ちが良い。


 すぐにシベルと王子もやってきて、なごやかな雰囲気でお茶会が始まった。


「今日は、のどにも優しいカモミール茶を用意しました。季節の変わり目で風邪も引きやすいでしょうから、風邪にも効くブレンドです」


 ダウンシャー家のメイド達が、マーゴの合図とともにお茶の入ったカップを配り、お茶菓子を並べていく。

「美味しいね。良い香りだし」


 王子は気に入ったようで、笑顔でお茶を飲んでいる。


「さっそくだけど、僕が君たちのことをどう評価したか、知りたい?」


 死亡フラグ建築士!とんでもないことを、最初から言わないでよ。

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