第18話ゲームのお誘い
例の王子に猛アピールしたメイドを連れてパーラー(居間)に移動した。メイドの不始末だし、女主人であるお母様にも同席して貰うためだ。
この問題を起こしたメイド、私はあまり見かけたことがないんだよね。使用人の総人数は分からないから、見たこと無い人は結構いそう。
事情を聞いたお母様がやってきた。当たり前だけど、ご立腹のよう。にこやかに微笑んでいるけど、あれは、絶対怒りの笑顔。
「デイジー、あなた何が問題か、分かってますよね」
「いいえ、奥様」
王子に嫌がられていたのに、ここで問題ないと言い切っちゃうのかー!
「私は、殿下に相応しい美しい容貌です。お嬢様よりも美しく、魔力もあり、血筋にも問題が無いのに、なぜ、罪に問われるのでしょうか」
はっきり言い切ったデイジーに、お母様もレイモンドも呆れてしまっている。感情の揺れを見せることはレディとして恥ずべき事として、あまり揺らぎを見せないお母様を呆れさせるなんて、すごいことだ。
デイジーは、悪い容姿ではない。10人中6人は美人って答えてくれると思う。私は、お父様譲りの銀髪に、お父様とお母様の良いところ取りの顔立ちなので、10人中9人が美人と答えてくれる。
ゲームでヒロインのライバル役だから、非常に見目は麗しいのだ。
そんな私の容貌よりも美しいと言い切ってしまっているから、野次馬でいるメイドたちからは失笑が漏れている。
「メイドであることを、忘れているのでは?」
「私は、誇り高きグリュー家の末です。本来なら、殿下の婚約者は私のはず」
誇り高きグリュー家?貴族年鑑にそのような家の名前はなかったはず。
「グリュー家が残っていたとしても、身分は伯爵。侯爵家の候補達に成り代わって選ばれることはありえません」
レイモンドが、眉間に深いしわを寄せて言った。どうやら、レイモンドはグリュー家がなんだか知っているみたいだ。
伯爵家で、今はないグリュー家。その家の子孫だといっている、デイジー。デイジーはお家再興がしたいのか、単に王子様と結婚に夢見てるのか、私を押しのけても婚約者になりたいみたい。
魔法を駆使してまで手に入れたいのか。
「デイジー、そんなに私に勝てると思ったの?」
「ジュリアお嬢様よりも美しい私を、殿下が選ぶことは自明の理ですわ」
まったく私のことを敬っているようには見えない言い方だ。それにしても、デイジーって幾つなんだろう。言い方が幼稚なんだけど、王子へのアピールは大人ってより、単なる耳年増のような気もする。
「お母様、デイジーは我が家にきたときに、スタートはどこからでしたの?」
「グリュー家の令嬢であることは知っていたので、ハウスメイドとして雇ったの」
つまり、下働きをしてないってことか。デイジーの手は、メイドをしている割には荒れていない。元令嬢みたいなことを言っていたので、メイドの薄給ではハンドクリームのような高級品は買えない。それでも手荒れをしていないのは、あまり仕事をしていないのだ。
誰に仕事を押しつけてるんだ、この人。
「お母様、デイジーをトゥイーニーからやり直させたら良いと思うわ」
トゥイーニーは、キッチンメイドとハウスメイドの両方の仕事をする一番下層のメイドである。本来なら、クビなんだろうけど、変に私に対してライバル意識を持っているみたいだし、外に放り出したら何をし出すか分からないから、この屋敷に置いておきたい。
トゥイーニーは激務だし、最下層だから他のメイドたちの監視もあるし、妙なことはしないだろう。
「ジュリア、いいの?」
「いいんです。デイジーはもっと仕事をするべきでしょうから」
王子は彼女がわざとやっていたと気がついていたみたいだし、私がどういう采配を振るうのか知りたいのだろう。
デイジーはまったく納得していない顔をしながらパーラーを出て行った。先輩メイドたちにこれから、みっちりしごかれるのだろう。
○●○●
王子にお茶をかけた事件のあった次の週、さっそく王子が我が家に遊びに来た。結果を聞きに来たのかな?
手厚くもてなして、前回と同じように四阿へと向かう。もちろんデイジーはいない。王子と隣り合って座って、お茶をメイドに入れて貰ったところで、王子が意味ありげに私を見た。
「あのときのメイドは、我が家でトゥイーニーをしてます」
「許したんだ」
「ちょっと変わった人でしたので、手元に置いておかないと心許ないというか」
「彼女、グリュー伯爵家だったね」
「殿下は、ご存じだったのですか」
「グリュー伯爵家を取りつぶしたのは王家だからね、勉強のうち」
伯爵家を取りつぶすだなんて、よっぽどの事があったんだ。王子は勉強といっていたから、この数年のことでは無くて、もしかしたら、私たちが生まれる前の話?
「殿下、私、その話詳しくききたーい」
よく女の子がやっている彼氏にねだる話し方をまねしてみたのだけれど、死亡フラグ建築士は、優雅に鼻で笑った。
「それ、似合わないよ」
「殿下、詳しく聞きたいです」
「調べてみれば、すぐに分かると思うよ」
なんだよ、結局教えてくれないのか。
「君は知っているかと思っていた。知っていてあえて、僕に彼女を近づけて反応をみているのだと」
「いくら何でもそんな失礼なことはしません」
「そうみたいだね」
こう話していても、王子からは情報をもらえそうにないし、寛大な処置をしてくれた王子に、デートっぽいことでもしましょうか。
「殿下、ゲームしませんか?」
「ゲーム?」
「そ、チェスでもなんでも。ボードゲームもありますし」
「いいよ。二人だし、チェスにしようか」
「私が勝ったら、質問に答えてくれます?」
「僕が勝ったら、キスしてくれるならいいよ」
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