第10話シャールーズとの再会
私は、十二歳にしては身長が低い方だと思う。ルイにだって身長が追いつかれそうだ。だから、シャールーズがさらに背が伸びて、もっと私との身長差が開いてしまったことが悔しい。
シャールーズは、去年会ったときより五センチは伸びていて、体つきも大人の男性のようにちょっとだけしっかりしてきた。
「久しぶり、シャールーズ」
シャールーズに再会のハグをする。ちょうど私の頭がシャールーズの胸元に当たるぐらいの差がある。悔しい。本当に、身長が伸びてる。
シャールーズも軽く抱き返すついでに、私の首筋に顔を埋めた。
「相変わらず、良い匂いがする」
「姉上から離れろ」
ルイが、私とシャールーズの間に割り込んだ。険しい顔つきで、シャールーズを睨んでいる。
「誰だ、これ」
「弟のルイよ。一緒に居たいって言うから連れてきたの」
「へぇ。俺はシャールーズだ」
シャールーズは私を抱きしめていた手を離して、ルイの頭をなでる。意外と小さい子供の面倒をみるのはすきなのだろうか。
「バザールに行こうぜ。ケバブの旨い店あるから」
昼と夜の間の時間で、夕食にはまだ遠い。だけれども小腹が空くこの時間。私もシャールーズも少しお腹がすいている。シャールーズの嬉しい提案に、私もルイも頷いて、バザールに向かった。
貿易が盛んなギティは、中央通りが一番大きなバザールをやっている。世界中の物が集められている、と評判のバザールで通りの両脇に所狭しとお店が並んでいる。買えない物はないんじゃないか、ってぐらい。
普段から人も多くて、歩くときには迷子にならないように注意するのだけれど、今日は以前と比べて人が多いようだ。何かイベントでもやってるのだろうか。
シャールーズにつれられて、ケバブのお店に向かっていると、一番混んでいるところにきた。どうやら、着飾った女性がたくさんの人から祝福の言葉をかけられている。
シャールーズの袖を引っ張ってこちらに注意を向けさせる。
「あれ、なにやってるの?」
「ああ、あの女か?」
「そう。装飾品をたくさん付けている人」
「あれは、花嫁だ。これから花婿の家までみんなで向かうのだろう」
幾何学模様の美しい布地を頭からベールのようにかぶり、その布の端は刺繍糸で飾りが施されている。そのベールを留めるように、金でできた細いチェーンが頭に巻かれている。よくみると、小さな宝石がチェーンについているようだ。
薄手のマントを羽織っているので、どのようなドレスを身につけているのか分からないが、こういう場合は伝統的な花嫁衣装を身につけているのだろう。アラビアンナイトの世界みたいだ。
親族なのか、年の頃合いが花嫁と同じぐらいの女性達に囲まれて楽しそうだ。
いいなー。結婚をしたいと強くは思わないけれど、結婚できる年齢になるまで私は生きていられるのだろうか。ゲームでは、結婚する前に処刑された。
せめて、家族だけはギロチンから遠ざけたい。
私が、羨望のまなざしで花嫁を見ていることにシャールーズは気がついたのか、私の顔を覗き込んだ。
「花嫁が羨ましいか?」
「とっても。幸せそうだから。幸せそうな花嫁さんて、女の子の憧れでしょ」
私にとっては、死刑執行されなかった証だ。羨ましくて、渇望する。
「お前は、幸せな花嫁になるよ。……俺が……絶対」
シャールーズの耳が心なしか少し赤い。いつになく真剣なまなざしで、私に思いを伝えてくれる。私は、コトリ、と心が揺れ動いて鼓動が早くなる。
びっくりして、往来の真ん中だというのに立ち止まって私はシャールーズを見つめた。シャールーズも何故か、驚いたようにこちらを見つめ返してきて、何も言わずにふっと視線をそらすと、左手で私の右手を握った。
「はぐれると困るだろ。……行くぞ」
シャールーズは私を引っ張るように、花嫁行列から視線をそらさせる。ルイの姿を確認すると、私よりちょっと後ろにいて、ちゃんと着いてきている。
シャールーズとは去年だって手をつないで歩いていたことだってあるのに、なぜかドキドキする。去年よりも大きくなったシャールーズの手に男らしさを感じてドキドキしているのか、さっきの言葉に心が揺れているのか。
私は、さらに高鳴りそうな心を押さえ込むように、握られた手を握り返した。それよりもさらに強く、シャールーズに握り替えされて、よけいに鼓動が早くなった。
ソースの良い香りが食欲を刺激する。ケバブの屋台で、ひとつづつケバブサンドを買った。ケバブを薄切りにして、小麦粉で薄く焼いたパンに包んで売っているのだ。
三人で固まって屋台の端っこの方でケバブサンドを食べる。肉は軟らかいし、タレが染みこんでいてとても美味しい。小麦粉のパンも焼き目が香ばしい。ルイはタレがかかった肉を上手に食べられないみたいで、口の端にソースが着いていた。
私がそれをハンカチで拭いてあげると、嬉しそうに笑った。それを見ていたのかシャールーズが口の端にルイと同じようにソースをつけて、私に見せてきた。私が呆れてシャールーズの口の端もハンカチで拭くと、シャールーズは、機嫌の良い猫のように、にんまりと笑った。
「そうだ。面白いところつれてってやるよ」
ケバブも食べ終わって、これからどうしようか、と三人で話していたら、シャールーズに良い案があるみたいだ。
「ついてこいよ。絶対、気に入る」
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