第6話魔女裁判
てっきり牢屋に入れられるのかと思っていたら、連れて行かれたのは、王宮の一室だった。王宮にしては質素な造りなので、貴人用の牢屋かもしれない。
騎士達も王妃の命令には逆らえないので、捕らえたけれど、未成年である私を雑に扱うのは気が引けたのか、丁寧に連行され、この部屋に監禁していった。
私は、何もしていない、むしろ王子の盾になろうとしたぐらいだというのに、この仕打ちはいったい何だというのだろう。
お兄様が、守りの石が壊れたことに酷く、驚いていた。おそらく、私は守りの石が割れるほどのこと、つまり、死に至るほどの何かをされて、割れたのだ。
死に至る何か、とは当然、あの少女が私に対して行った、不思議現象だ。息を詰めさせ、後ろに飛ばした。
あれ、魔法とか、なんだろうか……。
それに、あの少女、すごく見たことがある。ピンクブロンドに、空色の瞳、ピンク色のぽってりした唇。美少女の見本みたいな子だ。
般若みたいな形相をして、私を罵っていたけれど。
女の子が抱きついた後に、目が虚ろになったジョシュア王子。あれも、魔法?
あ、それよりも!!王妃!。周囲の人の意見も聞かずに、いきなり私を犯人と決めつけて捕らえてた。
今まで起きたことを思い出しながら、じりじりと待っていたら、部屋の扉が開いた。入ってきたのは、鬼の形相をした王妃で、従者が一人ついている。
「女、これから起こることにすべて、肯定せねばならぬ」
「私ではありません」
「口答えするのか!」
王妃は、手にしていた扇を思い切り私に振り下ろした。体重をかけて殴り倒してきたので、私は椅子から転げ落ちる。後ろ手に縛れているから、体を支えることもできない。
「言うことをきかねば、お前の母親と供にすぐに、処刑する」
なぜ、ここでお母様がでてくる?普通、反逆罪であれば一族まとめて、とかが多いと思うのだけれど。
「ふふふふっ……邪魔な母娘をまとめて処刑するのも、また、粋なことかもしれぬ」
王妃は、楽しそうに笑った後、私を蔑むように見下ろして、ヒールの先で私のあごを蹴り上げた。うめき声を上げて、私は後頭部を床に打ち付けた。
「すぐにつれて参れ」
見張りに立っていた王宮騎士が、床に倒れ込んでいる私を悼ましそうに見ながら、抱き上げて立たせてくれた。
こいつ……いつか見てろよ……!王妃の座から引きずり下ろしてやる!!
連れて行かれたのは、大広間だ。すでに、テーブルが一緒だったアングルシー侯爵家の兄妹のウィリアムズとシベル、ダウンシャー侯爵家のダウンシャー夫人とマーゴがいる。うちは、お兄様の他に両親がいた。
王宮兵士に部屋の中央まで連れて行かれ、王妃の前に平伏させられる。髪が乱れ、顔が腫れている私の姿を見て、数人から悲鳴が上がる。
これ、完全に罪人の扱い!
「これより、刑を執行する」
いきなり、刑の執行!罪状すら明かされないとか
「王妃様、それはあまりにも酷すぎます」
お兄様が半泣きになりながら、訴えている。お兄様、しっかりしているようだけれど、まだ十五歳の子供だし、パニックになってもしかたがない。
「イーサン、貴方は父親であるオスカーに似てとても賢いから、わかるでしょう。この悪女を処刑にしなければならないことが」
王妃は、儚く消えそうな弱々しい表情をしてお兄様を説得しようとする。
お父様は、王妃に名前で呼ばれてるの?礼儀知らずというより、ねっとりとして気持ち悪い執着を感じる。
「娘の仕業とは、限りません。ちゃんと、調査はされたのでしょうか」
「発言を許していないわ。アリア、お黙りなさい」
「娘は、魔法を暴発させていません」
尚もお母様が反論すると、王妃はお母様の前までいって、扇子で殴りつけようと振りかぶった。事も無げに、お母様は扇子をよけて一歩下がる。
「誰が、避けて良いと!」
王妃は、どうやらお母様に執拗なほど憎んでいるようだ。殴る、避けるの攻防が三回目になろうとしたときに、さすがにお父様が、王妃様の腕を押さえつけた。
「なぜ、止めるの、オスカー!」
王妃は、怒っているけれど嬉しいという女の顔で、お父様を見ている。
え?ちょ……まさか、王妃って。
さすがに、ずっとこのままの体制では居られないと思ったのか、王妃は中央にやってきて私を蔑むように見下ろす。
「刑を言い渡してやろう。処刑だ。せめてもの情けで、毒杯を煽ることを許してやる。私も慈悲深い」
悦に入ったように王妃は高笑いをする。
貴族は名誉を守るために、処刑はギロチンではなく毒杯を賜ることが多い。見せしめや、見世物として価値があるのであれば、ギロチンにかけられることもあるが、基本的には毒杯だ。ギロチンは準備に時間がかかる。公開するのが目的なのだから、処刑場を造らなければならない。その点、毒杯はこうして有力貴族達の前で、罪人に毒をあおって貰うだけだから、準備もいらないし、秘密裏に事が行える。
もしかして、ジョシュア王子が外部からの侵入者に強力な魅力の魔法をかけられた事を無かったことにしようとしてる?
私が肯定以外の言葉を発すると、お母様も処刑すると王妃は言っていたけれど、本当に肯定する言葉しか発しなかったとしても、あの王妃なら何かと理由をつけてお母様も処刑にしそう。
「私は、魔法を暴走させていません」
「誰が発言を許した!母親によく似ている……ちょうどいい、アリアも処刑にしてやろう。アリアを捕らえよ!」
王妃は王宮騎士達に命じるが、お母様の罪状が明らかになっていないので、騎士達も迷っていえるようだ。
「私は魔法を暴発させるほど、魔力を身のうちに含有していません」
この間の一斉検査の時に私は、30%しか魔力を体内で生成できないと分かっている。体内で30%しか魔力を持てないのであれば、魔法は使えない。暴発させることもできない。
「魔力検査で結果がでてます」
「魔力をほとんど持っておらず、なぜ?生きながらえておる?名門貴族で魔力がなければ、命で贖うのが礼儀」
王妃はまるで、虫けらのように私を見た
「お待ちください、王妃様、もう一度ご再考を。僕も妹も、見知らぬ少女が殿下に抱きついてから様子がおかしくなったのを見ています」
「子供の発言は認めぬ」
「僕も見ています」
「イーサン、不出来の妹など庇うことはないのよ」
「恐れながら、私も不法侵入してきた少女をみています」
正式な深いお辞儀をして、ダウンシャー侯爵夫人が発言をした。ここで私を庇ったところで侯爵家としては得も無い。
「あの少女が何かしたのか、何もしてないのかわからないと、とても不安ですわ」
「不法侵入した少女は後日そのような事があったか調べさせよう。まずは魔法暴発させた件から」
王妃は、従者に合図を出して盆にのった毒杯を持ってこさせる。
「さあ、飲め」
王妃は、毒杯を手にして床に座っている私に飲ませようとしてくる。
ちょ、こんな所で死んでたまるか!
私が顔をそらしていると、王妃が顔を押さえ込んでくる。無理矢理飲まそうとしてくるので、お父様やお母様が止めに入ってくる。
「そこまでだ、その刑を執行するのを止めよ!」
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