第5話これってテロじゃないですか?
どうやら王子様は、各テーブルを回って全員に挨拶と軽く話しをするようだ。真面目だ。一番身分の高い者達が集まっているこのテーブルに真っ先に来たのも仕方が無い。
なにしろ三大侯爵家の集まりだ。
「初めまして、第一王子ジョシュアです。貴女は、レディ・ジュリア・デクルーですね」
ジョシュア王子は、お兄様と顔見知りなのだろう。お兄様に挨拶した後、私を見てにっこり微笑んだ。
笑顔が可愛い。
私、前世で十二歳だった頃の同級生の男子ってもっと、こう、やんちゃなガキって感じだったんだけど、ジョシュア王子は、上品で大人だ。みかけは、女の子ぽいけど。
王家に生まれるということは、早くに大人にならなければならないのかもしれない。
金色の煌めく髪の毛は、煙るようだし、空色だと思っていた瞳の色は、近くで見ると青色と灰色の中間色で不思議と吸い込まれそうだ。とても端正な顔立ちの美少年で、将来、絶対、美丈夫になることが保証されている。
「お初にお目にかかります。ジュリア・デクルーにございます」
私は、平伏するぐらいに深々と正式なお辞儀をした。
「今日は来てくれて……」
「居た!私の王子様!!」
王子が私に定型文のような言葉をかけようとしたのを、突然少女の声が遮った。私は、礼儀を忘れて振り返ると、薔薇の庭園の生け垣から簡素なドレスをきたおなじ歳ぐらいの少女が一目散に、こちらに駆け寄ってくる。
ピンクブロンドの髪の毛は、結もせずそのまま背中流し、着ている服は茶色の質素なワンピースドレスだ。顔立ちはこの会場にいる誰よりも整っている驚異の美少女だ。瞳は大きく、緑目がちでうるんでいる。鼻は高いけれど小ぶりで形が良く、唇はぽってりとした薔薇色。
この会場には、伯爵家以上の令嬢しか居ない。私は、そのすべての令嬢を記憶しているが、この少女は見たことが無い。
誰だ?あのピンクブロンドの子供。見たことあるのに!
「殿下、お下がりください」
私は咄嗟に、ジョシュア王子に声をかけ、駆け寄ってくる少女の進路妨害をしようと立ちふさがる。
「何よ!あなた、もう私の邪魔をしようって言うの!
あなたなんか、大嫌いよ」
少女は、私の妨害に少しだけ走る勢いを弱めたが、勢いのまま叫び、私を指さした。たったそれだけなのに、私は息が詰まり、体を二つ折りにして後方へと飛ばされた。
耳元で、硬質なガラスが砕けるような音。
後方へと飛ばされながら、見えたのは、少女がにやりと得意げに笑って、ジョシュア王子に抱きつくところ。瞬間、私は誰かに抱き留められる。
「会いたかった!大好き、私の王子、ジョシュア様」
少女は、王子の胸元に顔をよせ、ぎゅっと抱きつく。王子は、うつろな目つきで少女を抱き返そうとする。
「殿下から、離れろ」
お兄様が聞いたことも無い低い声で制すると、王子の護衛達が抜剣して少女を捕まえようとする。それをよけながら、もう一度少女は言う。
「私の物よ、ジョシュア!」
子供らしい、キャラキャラした笑い声を上げながら、再び茂みに少女は駆け込んでいく。護衛達が次々に追いかけていく。
もう、お茶会どころでは無い騒ぎだ。あたりが騒然としている。
「大丈夫ですか、マイ・レディ」
飛ばされそうになった私を抱き留めてくれたのは、このテーブルで給士をしてくれた王宮の従僕だった。
私は咳き込みながらもお礼を言って、立ち上がる。
なんだったんだ、あれ?
立ち上がった拍子に、壊れたイヤリングがドレスから滑り、地面に落ちた。イヤリングについていた宝石が粉々に砕け散っていた。左右共に壊れたみたいで、二個とも落ちている。
後方に飛ばされたショックで壊れたのだろうか。
「ジュリア、それ、壊れたのか?」
お兄様が、壊れたイヤリングをみて蒼白になった。
え?これ、そんなに高い物なの?宝石も小さいし、細工もあまりされていないから、そこまで高くないと思っていたのだけれど。
「それは、守りの石だ。……よかった、無事で」
守りの石、それは有名な錬金術で生み出された道具のひとつで、人が死に至る危険を一回だけ身代わりになってくれる物だ。普通は、世界を駆け巡る商人とか、暗殺の危機にさらされている国の要人が身につける物だ。
侯爵家の娘とはいえ、身につけている人はあまり、いないだろう。
え?私、そんなアイテムを身につけていたの?ここ、王宮なのに?
「殿下の様子がおかしい」
ウィリアムズや、王子の護衛達が王子に呼びかけているが、何も答えないようだ。その代わり王子の額には、魔方陣が浮かんでいる。
「何事ですか」
騒ぎを聞きつけたのだろう、王妃様が側近と従者、騎士達を引き連れて、薔薇園にやってきた。王妃様は、すぐに騒ぎの中心である私たちを見て眉根を寄せた。近くに控えていた側近に耳打ちをする。王妃様の側近が地面に座り込んでいる私を上から下までじっくり見た。
「ジュリア・デクルーを捕らえよ。ジョシュア殿下を弑逆した!監禁せよ。関係者を大広間へ」
王妃様の側近が高らかに命を下した。
お兄様に支えられていた私は、あっという間に騎士に囲まれて、地面に倒され後ろ手に押さえつけられる。
おい、いたいけな十二歳の少女だぞ!
「ジュリア!ジュリア」
お兄様が恐慌状態に陥りそうな声で私を呼んでいるが、すぐに別の騎士に押さえ込まれ、他の侯爵家の人たちの所に連れて行かれ、私から隔離された。
王妃は、私を憎々しげに睨み付けて、こう言った。
「この女に、魔法封じの腕輪をつけよ。また、暴発されても困る」
私は、右腕に魔法封じの腕輪をはめられ、罪人として連行されたのだった。
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