第10話 クリスマス・イブ①
朝からソワソワして落ち着かない。
(あんなこと言うんじゃなかった。もう少し親しくなってからでも良かったじゃないか?)
そんな後悔の思いが頭をよぎる。
気を紛らわそうと、持ってきたDVDをパソコンで見ていたが、夜までの時間がこんなに長いとは思わなかった。
早めにロビーに行き、コーヒーを飲みながらひたすら彼女を待った。
ホテルの外を見ながら、入り口にタクシーが止まる度に降りてくる客を確認していた。
外は日が沈み、暗くなっている。そろそろ約束の時間だ。
(ひょっとしたら、来ないかも知れないな。いや、そんな子じゃない、嫌ならはっきりと言うはずだ)
そんなことを考えていた時、また1台、タクシーが止まって客が降りてきた。
(あ、来た。シュウリンだ)
急いで入り口に向かい、声を掛けた。
「シュウリン!」
彼女は私に気付き、こちらを見ている。
「外は寒いからロビーでコーヒーでも飲もう」
「ううん、いい。直ぐにお店に行かないといけないから」
(ああ、なんか駄目っぽい雰囲気だな・・・)
「じゃあ、ちょっと寒いけど外を散歩しようか」
そう言ってホテルの前にある広場の方に向かった。広場はクリスマスらしくイルミネーションが飾られている。
歩きながら彼女が話してきた。
「クラブで働いているとね、いろんな人が口説いてくるの。でも、ほとんどが身体目当てか愛人にしようと思ってる人たちなの。私の友達も大体同じような経験してる。中にはそれでも良いって言う子もいるけど、私は嫌」
「だから俺は違うって!」
「私ね、友達に頼んで安西さんと岡本さんにいろいろ聞いてもらったの。東条さんの事」
(ああ、そう言えばあいつらの彼女も同じクラブだったな・・・。あいつら変なこと言ってないだろうな)
「あいつらなんて言ったの?」
「・・・・」
「シュウリン?」
「あのね・・・、独身で、すっごく真面目で良い人だって!」
(ふー、良かったあ)
「―――ねえ、もう一度、告白して?」
「え?ああ、分かった」
「シュウリン好きだ。俺と付き合って欲しい」
「うん、私で良ければ」
「・・・マジ?よっしゃああ!」
一瞬、びっくりして声が出なかったが、思わず大きな声で叫んだ。駄目かと思っていただけに、泣きそうなぐらい嬉しかった。
「それとね、これ、クリスマスプレゼント」
彼女はバッグから綺麗にラッピングされた箱を取り出した。
「開けて良い?」
「うん」
中を開けると、ハート形のクッキーが一杯入っていた。
「私、お金無いからこういうのしかプレゼントできないけど、一生懸命作ったの」
「ありがとう、最っ高のプレゼントだよ」
そう言って、そっと彼女を抱きしめた。
「絶対、後悔させないから。幸せにするから・・・」
私は・・・彼女の唇にキスをした。
彼女の唇は、柔らかく温かかった。
広場のスピーカーからは、ジングルベルの曲が流れている。
「メリークリスマス、シュウリン」
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