第9話 告白
――――2か月後
今回は流石に仕事のスケジュールを合わせることが出来ず、私は自費で中国に行くことにした。幸い日本は、祝日と土日が重なり3連休だが、3日間というかなりの強行スケジュールだ。
仕事は関係ないので寮は使えない。私は日本人街に近いホテルに宿泊することにした。
12月23日午後。中国に着いて直ぐにホテルに向かった。チェックインを済ませ荷物を置いたあと、彼女に電話をしてホテルの前で彼女を待った。
しばらくすると、彼女を乗せたタクシーが来た。
「東条さん、久しぶり!」
「久しぶり。あれ?少し痩せた?」
「えへへ、分かる?」
「取り敢えず、ショッピングモールに行こうか?」
私達は、市内でも一番大きいショッピングモールに向かった。出来たばっかりのショッピングモールには、家族連れやカップルなど大勢の人で賑わっていた。
テナントには、日本でも有名なブランドの洋服店や飲食店もいくつか入っている。映画館やレストラン、スーパー、なんとスケートリンクまであった。
彼女は入り口付近の案内表示を見ながら、宝石店を探した。3階に有名ブランドの宝石店があるのを見つけ、私達はエスカレーターで上がっていった。
宝石店に着くと、お洒落な外観と煌びやかな宝石が眩しく感じた。
彼女は指輪が並んでいるディスプレイケースの前に行き、選び始めた。
「あ、これかわいい。―――こっちも、綺麗」
彼女は、店員がケースから出してきた指輪を目移りしながら見ている。
私に気を使ってか、値段を確認しながらあまり高くないものを2つに絞ったようだ。
「ねえ、どっちが良いと思う?」
「好きな方、選べば良いよ」
「東条さんにどっちか決めて欲しい」
「じゃあ、このハート形の宝石が付いた方が良いな」
「ふふ、私もこっちが良いと思ってた。じゃあ、これ」
店員はその指輪をケースに入れ、綺麗にリボンでラッピングして彼女に渡した。
「ありがとう。大切にするね」
私を見ながら、照れくさそうに言う彼女がいつも以上にかわいく見えた。
「腹減ったな。何か食べて帰ろうか」
そう言って、モール内にあるレストラン街に向かった。
北京料理や日本料理、ベトナム料理などあったが、彼女が食べたことないと言っているフランス料理店に入った。私も詳しい方ではないのでディナーセットとシャンパンを頼んだ。
窓から外を見ると、既に日が暮れかけていた。
クリスマス前ということもあってか、装飾されたネオンの灯りがいくつも見える。
店員がシャンパンを持ってきて、グラスに注いだ。
私達は、シャンパングラスを手に持ち乾杯した。
「シュウリン、25才の誕生日おめでとう」
「ありがとう。こんな誕生日初めて」
「さあ、食べよう」
「わあ、美味しそう。ナイフとかあまり使ったことないから笑わないでね」
彼女が、慣れていないナイフとフォークに苦戦しながら食べている姿が、妙に可笑しかった。
――――楽しいと時間が経つのは早い。食事も終わり、ショッピングモールを出て宿泊予定のホテルに送ってもらった。
「シュウリン、ホテルのバーでちょっと飲まないか?」
「うん、いいよ」
私達は、ホテルの最上階にあるバーで、少しの時間飲むことにした。
「シュウリン、指輪見せて」
彼女は、ラッピングを外して指輪を取り出し、私に渡した。
「かわいい指輪だね。指に嵌めてあげる」
私は、彼女の左手を持った。白く細い彼女の指は、か弱く、美しかった。
「どの指が良い?・・・というか、どの指に合うサイズを買ったの?」
「多分、どの指でも合うと思う」
「そうか、じゃあ・・・中指にしよう」
流石に、薬指はちょっと気が引けた。私は、指輪を中指にゆっくりと嵌めた。
「見せて」
彼女は、照れくさそうに手の甲を私の方に向けて指輪を見せた。
「うん、似合うよ」
私は、自分の気持ちを伝えようと思った。今言うと、指輪で釣ったような感じになるのは嫌だったが、この高ぶりを抑えられそうになかった。
「なあシュウリン、俺と付き合ってくれないか?」
「え?」
「俺、シュウリンの事好きなんだ」
「・・・東条さんは本当に独身なの?彼女もいないの?」
「うん、いないよ」
「本当に?・・・皆そう言って、日本に家族や恋人がいるのにこっちで愛人を作るの。そして、日本に帰ると連絡が来なくなるの。私は、そんなこっちにいる時だけの都合の良い愛人とか嫌なの!」
彼女は少し強い口調で言ってきた。
確かに駐在員や出張者達の中には、妻子がありながら現地で愛人を作る奴はいるし、女性の方もパトロンとして割り切って関係を持つものもいる。彼女は、そんな関係を嫌がっているのだろう。
「本当だって。愛人にしようなんて思ってないから。本気で好きなんだ!」
「・・・ちょっと・・・考えさせて」
「・・・ああ、うん。急だったから直ぐには返事できないよね。俺、明後日の朝、日本に帰るから、明日の夜もう一度会わないか?1日じゃあ答え出ないかな?」
「分かった・・・」
「じゃあ、明日の夜のこの時間に、このホテルのロビーで待ってるから」
私は、彼女をホテルの入り口まで送った。
彼女は、考え込みながらホテルの前に止まっているタクシーに乗り込んで帰っていった。
(急ぎ過ぎたかなあ・・・明日は来ないかも知れないな・・・)
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