第11話 クリスマス・イブ②
私は、彼女と一緒にクラブへ行くことにした。明日の朝早くにはホテルを出発しなければいけなかったが、少しでも彼女と一緒に居たかったからだ。
タクシーに乗っている間、彼女の手をずっと握っていた。
店に入った私は、いつもの一番奥のボックス席に座り、彼女を待った。
しばらくすると、サンタ帽子を被った彼女がやって来た。そして、彼女の左手の中指には、プレゼントした指輪が光っていた。
今までは客とホステス、でも今は恋人同士。まだ二人しか知らない関係に嬉しさが込み上げてくる。
「何、ニヤニヤしてるの?」
「嬉しいんだよ。恋人同士になれたから」
周りに聞こえないように彼女の耳元で言った。
「もう・・・恥ずかしい」
彼女も照れた様子でうつむいた。
「でも、クリスマス・イブが私達の恋人記念日だから、忘れなくていいね」
「ああ、そうだね」
「でも、付き合って直ぐに離ればなれになるの嫌だな・・・」
「1月に、また来るから。それまでは、毎日、メールするよ」
海外電話は着信側にも通話料が発生する。少し話せば1回の電話で1000円ぐらいは直ぐかかってしまう。中国の平均年収は日本の5分の1ぐらいだというから、彼女の月収を考えると相当な負担になる。
日本からの電話は緊急時だけにして、普段はメールでやりとりすることにした。
クラブは、ほぼ満席状態となってきた。中国に単身で来ている日本人達が、クリスマスの寂しさを紛らわすために来ているのだろうか。
これだけ忙しいと、彼女もたまに席を離れて違う客のところへ行ってしまうが、直ぐに帰ってきてくれた。
しばらくすると、各テーブルに苺がのったミニケーキとクラッカーが配られてきた。
「ママの掛け声で、皆でメリークリスマスって言うの」
(ああ、なるほど)
クラブのママがマイクを持って出てきた。
「準備できたー?いくよー。3、2、1、メリークリスマス」
ママの合図で、一斉にメリークリスマスの掛け声が飛び交い、クラッカーが鳴った。
彼女はケーキをフォークで小さく切り取って言った。
「食べさせて上げる」
「いいよ。皆に見られるから」
「はい、口開けて」
私は、恥ずかしかったが口を開けて食べさせてもらった。
最高に幸せな瞬間だった。
結局、閉店まで店にいた。外で彼女を待ち、近くのラーメン店に夜食を食べに行った。興奮していたのか、晩御飯を食べていないのに今頃気付いた。
外は寒かったので、温かいものが美味しい。
「さあ、お腹も一杯になったし帰ろう」
「ホテルまで送って行ってあげる」
私達は、タクシーに乗りホテルに向かった。
(なんか別れづらいな・・・部屋に誘おうか・・・いや、流石にそれはまだ・・・)
ホテルに着き、私はタクシーから降りた。
彼女が運転手に何か言っている。
「タクシーにちょっと待っててもらうように言ったから、もう一度イルミネーション見に行かない?」
そう言って、一緒に降りてきた。
「さっきは全然、目に入ってなかった。綺麗だねー」
イルミネーションを見てはしゃいでいる彼女は、寒さを忘れるほどかわいかった。
「あ、もうこんな時間。帰らないと」
もう夜中の2時を過ぎていた。
「シュウリン」
そう言って彼女を抱き寄せ、もう一度キスをした。
「じゃあ、日本に帰ったらまた連絡する」
「うん、気を付けて帰ってね」
彼女をタクシーに乗せ、しばらくの間見送った。
私にとって長い、そして最高の1日が終わった。
――――日本に帰って会社のパソコンを立ち上げると、安西と岡本からメールが来ていた。
(こっそり来てたみたいですね。今度こちらに来たときは、貢献したお礼に奢って下さい。 安西)
(イチャイチャしてますか?結婚式には呼んで下さい(笑) 岡本)
(こいつら・・・もう、知っているのか・・・情報早すぎだろ)
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