曲がり者

ボロいアパートの前に一台の高級外車が停まった。


車の中から、マネキンのように感情が読めない数人の男が出てきた。おそらくボディーガードであろう男達が、忙しなく周囲を見渡し、危険がないことを確認している。しばらくして、子供のような背丈の老人がゆっくりと車内から出てきた。


フラフラ体を左右に揺らしながら、杖を支えに老人は歩く。その小さな体を支えようとした男を無言で拒絶。『104』と書かれた古いドアをノックした。


「開けてください」


「…………………」


「お願いしますっ!!」


「……うるさい。近所迷惑」


部屋の奥から、低い男の声がした。



「くださいっ。私に時間を!! 生きる為に」


「………お前は、何だ?」


「私は無価値で汚れた、ただのゴミです」


「…………………入れ。ゴミよ」



しばらくして、壊れそうなドアが開いた。老人は、車の前で待機していた男達に合図をし、車内から金が入ったケースを持ってこさせた。



部屋の前で一礼した老人は、裸足になり、ゆっくりと中へ入っていく。



…………………………。

…………………。

…………。


一時間後、同じ部屋から青年が出てきた。


「ありがとうございますっ!」


「………うるさい」


青年は、笑いながら走ると颯爽と車に乗り込んだ。その車は、臭いガスだけ残して消えた。



「忘れ物…………。まぁ…………いっか」



無精髭。

シラミだらけの髪。

痩せた男は、老人が使っていた杖を珍しそうに眺めると、また静かに生活ゴミと万札で溢れた汚い部屋の奥に消えていく。


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