第114話 黒い太陽②
二人で、教室前の廊下を歩く。生徒の大半は、すでに帰宅したり、部活動の為に外に出ている。廊下には、僕たち以外誰もいなかった。
「教室で話す? 今は誰もいないだろうから」
「もしかして、誰もいない教室でエッチなことするつもりじゃないよね? いやっ、私はいいんだけどね。……でも、あれかな。まだ、心の準備が出来てなぃかも」
また、暴走してる。
漫画の読み過ぎじゃないか?
「そんなことするつもりはないよ。ただ、僕は知りたいだけ。全てを」
「ふ~ん。まぁいいけどさ。なら、ママに聞いたほうが早いかもね。まだ、校長室にいるだろうし」
僕の手を引き、走り出すナナ。
「ちょっと待ってよ。いきなり、校長室に行ったら失礼だよ」
僕の言葉は、ナナには届いていなかった。いつものことだけど。校長室の前で立ち止まったナナは、元気良く叫んだ。
「ママァ! ママァ! ここ開けてぇ。ナオがね、話したいことがあるんだってさ」
正気か。
家ならともかく、ここは学校だ。こんな大声で叫ぶのは非常識すぎる。しかも自分からママって言っちゃってるし。たしか、ナナは学校の皆に校長と親子だって知られたくないんだよな。
明らかな矛盾。
「入りなさい」
中から、校長の声がした。少し怒気を含んだ声色をしているのは気のせいかな。
ナナが、思い切り扉を開け、僕は静かにその扉を閉めた。校長室に入るのは、初めての経験なので、内心かなりドキドキしていた。部屋に入った瞬間、古紙の匂いがした。小学生の頃、何度か利用した視聴覚室の雰囲気に似ている。歴代校長の写真が、天井近くの壁に飾られていた。その下に、分厚い本がびっしりと入っている書棚がある。
大きな窓は、少し開いており、外から湿気を帯びた風が部屋に入りこんでいた。どうやら雨は止んだらしい。その窓の前で、執務机に座っている女性。
眼鏡をかけて、髪を後ろで束ねている。昨夜見たナナのお母さんであり、この学校の校長が僕たちの目の前にいた。やっぱり、威厳がある。雰囲気が、家にお邪魔した時とだいぶ違う。
「ママ、あのね。ナオが、ママに聞きたい事があるんだってさ」
「ナナちゃん。学校では、ママではなく校長先生って言いなさい。前にも注意したでしょ?」
「うん。ごめんなさい」
反省している、ナナ。
「ナオ君。話って何かな?」
ダークグレーの回転椅子から立った校長が、僕の前まで来て微笑んだ。相変わらず、童顔だった。応接時に使用するためのソファーに腰掛けた校長は、僕たちにも座るように促した。座った瞬間、お尻が予想以上に深く沈んで驚いたが、慣れてくるととてもリラックスできた。僕の前のセンターテーブルには、見たことのない外国のチョコがあり、ナナは無言でそれを食べていた。遠慮という言葉は、ナナの辞書にはないらしい。
正直、僕も一口味わいたかったが、気になっていたことを先に聞いておこうと思った。
「お忙しいところすみません。お仕事の邪魔をしてしまって。どうしても気になったことがあったので来ました」
「早く聞きなよ、ナオ。これから、ゲーセンに行くんだからさ。時間がなくなっちゃう」
僕は、軽くナナを睨むと話を続けた。
「な、なんだよぉ。ナオが怒っても恐くないんだから」
「ナナちゃん。少し静かにしなさい。ごめんね、ナオ君。話を続けてちょうだい」
「あ、はい。今さっき、学校の屋上で僕の友達が変異したんです。彼も覚醒者でした。最初は、悪い冗談かと思ったんですけど。あれが、覚醒者の姿なんですね。ナナが助けてくれなかったら、今頃喰われていました」
「ナオ君のお友達は、薬を飲むのを忘れていたのね。あれは、発作を抑える薬だから。一日一回は必ず飲まなくちゃダメなのよ」
僕は、手の平にかいた汗をズボンで拭った。部屋は適温のはずなのに、額にも汗が浮かんでいた。
「僕のクラスでも五人は、あの赤いカプセルを飲んでいました。ってことは、つまり彼らも覚醒者ってことですよね。昨日の校長の話だと、覚醒者は世界に数百人しかいないってことですけど。あまりにもこの学校には、覚醒者が多い気がするんです」
いつの間に用意したのか。ナナは、冷たい麦茶の入ったグラスを僕に手渡した。僕は、それをナナから受け取ると一気に飲み干した。
「美味しい? この部屋乾燥してるから喉渇くよね」
「うん。ありがとう」
ナナは、嬉しそうに笑っていた。髪を手の甲で撫でている。とても落ち着きがなく、足をバタつかせていた。ナナの無邪気な姿に思わず、口がにやけた。
「この学校はね、日本中から覚醒した子供たちを集めた特別な学校なの。現在、全生徒の半分ぐらいは、覚醒者よ。普通の学校では、馴染めない子供たちを監視付きで保護、教育してるの」
「そうだったんですか。覚醒した人間を保護する場所。確かに同じ仲間がいたほうが安心でしょうし、何かと協力出来ますね」
たしか、生徒会長の前園も赤いカプセルを飲んでいた。彼女も覚醒者だったのか。
「他に何か聞きたいことある? 時間ならあるから気にしなくて大丈夫よ」
「ないってば! ねぇ、ナオ。早く帰ろうよ。ゲーセン、ゲーセン」
駄々をこねだしたナナを無視して僕はさらに質問した。
「その覚醒者たちが飲んでいる赤いカプセルって、どこで入手しているんですか? もちろん市販はされていないでしょうし、毎日飲むなら相当数の確保が必要になると思うんですけど」
「なかなか鋭い質問ね。赤いカプセルは、私たち覚醒者の仲間が秘密の場所で大量に製造しているの。私たちは、あの薬を『ブラックモンキー』って呼んでいるわ。まぁ、薬の原料となる動物の名前がそのまま薬の名前になっているんだけどね」
ブラックモンキー?
そんな動物がこの世の中にいるのか。聞いたことのない名前。
「興味あるって顔してるわね。ナオ君は特別だから、見せてもいいわよ。どうする?」
「見たいです、すごく」
「じゃあ、ちょっと待っててね。今、準備するから」
校長は、鍵のついた金庫から、重量感のあるメタリック塗装の箱を取り出した。その箱にも暗証番号を入力する画面がついていた。厳重に保管されているのは分かったが、この箱の中じゃ、中の動物は息が出来ないんじゃないかな。
「これよ。これが、私たち覚醒者を救う希望『ブラックモンキー』」
校長は、黒い毛の塊のようなものを握っていた。強く握っているらしく、手には軽く血管が浮かんでいる。
「死んでいるんですか? 毛だらけで、中の様子がまるで分からないですけど」
「生きてるよ。ナオ君の持っている動物のイメージからは、かなりかけ離れていると思うけどね。手に持てば、ちゃんと体温を感じることも出来るし」
「そうなんですか。でも、あんな密閉された箱の中で息は出来てるんですか?」
「このブラックモンキーはね、あまり息をしないのよ。無呼吸状態で一週間は生きられるの」
「無呼吸で一週間。凄いっ!」
こんな不思議な動物が、この世界にいたのか。
僕は、興奮していた。そして、この動物を欲しいとすら思っていた。触りたい、そんな僕の心を見透かしたように校長は忠告した。
「あぁ、でもナオ君には飼ったり、触ったりすることは難しいかな。こうやって握ってないとすぐに逃げちゃうし。逃げ足が速いのよ、この子」
校長は、ゆっくりと手を広げた。さっきまで、瓢箪のように潰れていたブラックモンキー。解放された瞬間、僕の前から姿を消した。別によそ見をしていたわけじゃない。さっきまで校長の手の中に確かにいた。でも今はいない。煙のように消えてしまった。
「えっ?」
僕は、校長の足下や辺りを探した。
いない、どこにも。
「ママ、ナオをあまり困らせないで」
ナナは、立ち上がるとキョロキョロと目を動かし、手を伸ばした。一瞬、ハンマーを振り回した時のようなブンッ! と言う音が聞こえた。その音の後、僕がナナの手を見るとブラックモンキーがすでに手の中に収まっていた。一瞬の出来事。突然、消えたり現れたり、マジックのようだ。
「普通の人間の動体視力では、ブラモンの動きは速すぎて見えないんだよ。だから、私たちみたいな覚醒者の異常な眼力と俊敏な動きがないと捕獲も出来ない。そもそも常に握ってないとすぐ逃げちゃうしね。とっても面倒な動物だよ」
「へぇ………そうなんだ。飼うのは、無理だね。でもせめて少しだけでも触りたかったなぁ」
「今度、触らせてあげるね。コイツが冷たくなったら」
生きているうちにお願いします。
今もナナの手の中で窮屈そうに暴れているブラックモンキー。苦しそうだ。
「話は戻るけど、このブラックモンキーの血液を原料としてあの薬を製造しているの。もし、この動物がいなかったら、私たちは今でも人間を襲っていたに違いないわ。この動物はね、黒い風の正体を私たちに教えてくれたのよ」
「正体?」
黒い風の正体とは一体なんだ。
最近は、滅多に吹いてこない悪魔の風。人間を殺す風。昔と違って今は、警報も十分前に発令されるし、町には十メートルおきにガスマスクの入ったボックスも設置されている。今では、ガスマスクを持って出歩く人は少ない。それだけ、黒い風に対する恐怖も薄らいできている。
「な、何してるんですか!!」
校長は、いつの間にか自分の手をナイフで切りつけていた。右手首からは、少量ではあるが鮮血が滴っている。突然の校長の理解不能な行動に戸惑っていると、ナナが「心配しなくても大丈夫」とそっと僕に耳打ちした。数分もするとテーブルの上に、血の水溜まりが出来ていた。
「この虫は、火が大好きなのよ」
虫? 何のことだ。
校長は、ライターの火を溜まった血に近づける。僕は、黙ってこの儀式めいた行動を見ていた。ジュッという音。その後、少し焦げた臭いがした。炙られた血からは、黒い煙が発生した。その煙は、いつまでたっても消えることなく、むしろ濃くなっていく。
「これって」
黒い煙は、意志を持ったかのように部屋をぐるぐると回り始めた。これじゃあ、まるで。
「黒い風みたいでしょ。実際、そうなんだけどね」
ナナの発言は、しっかりと僕の耳に届いていた。ブラックモンキーは、ナナから逃げ出してテーブルの上に乗り、大きな口を開けて何かを待っていた。歯や舌はなく、口の中まで真っ黒だった。部屋を回っていた黒い風が、ブラックモンキーの正面にくると、どんどんとその口に吸い込まれていく。ケラケラと機械じみた不気味な声がブラックモンキーから聞こえた。
「黒い風の正体はね、目に見えないほど小さくて、モンキーレベルの素早い動きをする虫の大群なの。たまぁにニュースとかでもあるでしょ? 鳥や虫が群れて空を覆い尽くす現象。ブラックモンキーは、その虫を補食して生きているの。見て分かったと思うけど、私たち覚醒者はその虫に寄生されているのよ。この虫は、普段は大人しく血液の中で眠っているんだけど、たまに体内で暴れるの。そうすると私たちは発作を起こす。体が変異して、最終的に人間を襲うようになるのよ」
「それじゃあ、この虫は人間を選別しているってことですか? 普通の人なら、寄生されてすぐに死んでしまいますよね」
「う~ん。私にもその辺のことはまだ良く分からないのよ。確かに、人間の好き嫌いはあるみたいだけど、どんな条件でそれを判断しているのかは分からない。性別や年齢、体格、趣味や行動範囲。選ばれた人間は、みんなバラバラだしね」
黒い風の正体を知っているのは、まだ一握りの人しかいないと校長は言った。覚醒者が狙われる理由が、僕には何となく分かった。その命に高額な値段が付けられ、僕の両親のように追われるのは、きっとこの黒い虫を体に宿しているからに違いない。あの覚醒時の爆発的な身体能力に興味を持つ金持ちや研究者は大勢いるだろう。それを可能にしているのが体内に寄生した黒い虫。きっと狙われているのは、覚醒者ではなく、覚醒者の体の中にいるこの虫なんだ。
町は、うっすらと夜に染まっていた。どこか寂しく、僕が最も嫌いな時間になっていた。思いの外、校長室に長居してしまった。
「そろそろ帰ろうか」
「うん! 帰ろう」
「ナオ君。一つだけ、お願いがあるんだけど。おばさんのお願い、聞いてくれない?」
両手を合わせ、上目遣いで僕にお願いする校長。その仕草が、餌をねだるアライグマのようでなんとも愛らしかった。
「えっと、なんでしょうか? 僕にできることならなんだってしますけど」
「上着を脱いで欲しいの。ダメ?」
「うわぎ……ですか? えっと、まぁ、いいですけど」
僕は、多少戸惑いながらも制服のボタンに手をかけた。
すると、
「ダメッ! 絶対にダメ。ナオの体を見ていいのは、私だけなの! ママでも許さないんだから」
立ち上がったナナが、猛烈な抗議をしている。
「そう。残念ね」
肩を落としてションボリしている校長。そんな校長の姿は、僕までも悲しい気分にさせた。
「ママは、ナオの胸の痣が見たいの。確かめたいんだよ、パパの生まれ変わりだってことを」
「はっ?」
今、なんて言ったんだ。
ウマレカワリ?
「生まれ変わりなんてあるわけないよ」
「ママは、ナオがパパの生まれ変わりだって信じてるの」
胸の痣。あんな痣は、珍しくもない。産まれる過程で偶然出来たものだろう。
「おばさん。僕は、違います。すみません」
後頭部に何か柔らかいものが当たっている。
なんだ? 僕の耳元で、ナナが囁いている。
「ナオは、ナオだよ」
その言葉はとても優しくて、僕は安心した。
「胸が、頭に当たってる」
「!?」
ナナは、飛び上がると僕から離れた。視界が、パッと明るくなる。やはり、ナナは僕を後ろから抱きしめていたようだ。今考えるとかなり恥ずかしい状況。しかも目の前には、ナナの母親もいるし。
「ナナちゃんって意外と胸あるのよ。母親似でね。フフ、将来楽しみでしょ? 色んな意味で」
校長は、エロ親父のような目で僕を見ていた。肯定も否定も出来ず、僕はただ黙ってうな垂れていた。それから、すぐに僕とナナは校長室を出た。なんだか、居心地が悪くなったから。
「また、夕飯一緒に食べましょうね。今度は、板前さん呼んで美味しいお刺身を用意して待ってるから。ナオ君………。ナナちゃんのことこれからも宜しくね。校長としてではなく、一人の母親としてお願いします」
校長は、ナナのことをこんなにも心配している。当の本人は、そんな母の愛に気付いているのかな。
僕が、正面玄関で靴を履き替えていると、僕の横に復活した未来が来た。走ってきたのか、はぁはぁと息遣いが荒い。
「今、帰り? 偶然だね、僕もだよ」
「なんか、わざとらしいね。その言い方」
何か企んでいるな。
「そ、そんなことないよ。偶然、帰りが一緒になっただけ。用心深いなぁ、ナオは」
そう言うと、未来は靴箱を開けた。バサッ、バサバサバサ。少なく見積もっても十通以上のラブレターが、簀の子の上に雪崩式に落ちてきた。僕は、それを無言で拾った。
「はい。相変わらず、おモテなようで。羨ましい限りですよ、全く」
「はぁ……彼女らには悪いけど、僕にはナナちゃんがいるしなぁ。こういうラブレターってさ、処分するのに困るんだよね」
贅沢な悩みだな。僕なんか、今まで一度もラブレターなど貰ったことはないのに。不幸の手紙ぐらいだ、僕に届いたのは。
「そういえば、ナナちゃんの姿が見えないけど。これから、ゲーセンに行くんでしょ? もちろん、僕もついていっていいよね。ナオの親友なわけだし」
昼休み。ナナとの会話中、未来は寝ていたはずだが。どうして、ゲーセンに行くことを知っているんだろう。恐ろしいほどの地獄耳だな。
「三人で行こう」
仕方ないな。まぁ、僕としては二人でも三人でもさほど変わらない。
「やったぁ! ありがとう、ナオ。やっぱり、君は素晴らしいよ」
鼻歌交じりでスキップしている未来。僕たちは、校門前で待っていたナナに声をかけた。
「却下っ!」
「まだ、何も言ってないよ」
「未来も連れて行くって言うんだろ。そんなのダメだ」
「そんなこと言わないでよぉ、ナナちゃん。お願いだからさ、僕も連れていってよ」
土下座する勢いの未来。その姿に同情すら覚える。
「ナナ。三人で行こう。きっと、楽しいから。ね?」
「……ふぅ。仕方ないな。その代わり、今日はヌイグルミ三個だからな! 忘れるなよ」
自分で自分の首を絞めてしまった。はぁ。僕たちは、三人並んで歩き出した。
未来は、相変わらずナナの機嫌をとろうと必死に話題を振っていた。それを無視するか、適当に返事を繰り返すナナ。僕は、二人の後姿を見ていた。
(こうやって見ても普通の人間と変わらないな)
覚醒者。ナナや未来、校長や僕の両親までも覚醒者。今でも信じられないが、この目で見てしまった以上、もはや現実逃避は出来ない。
あの赤いカプセルがあるおかげで、彼らは普通に生活できる。ブラックモンキー様々だな、ほんと。
「どうした? ナオ。やけに静かだね」
「お腹でも痛いんじゃないかなぁ。下痢だよ、きっと。そんなことより、ナナちゃん! ゲーセン行った後でさ、二人だけでカラオケ行かない?」
『二人だけ』そこを強調する未来。彼の目には、もはや僕の姿は映っていなかった。
「現世でも来世でも行かない」
「そんなぁ。はぁ、ショックだなぁ」
「行ってきなよ、ナナ。未来が、可哀想だし。あんなに涙まで流してるんだから」
「い・や・だ。私が、二人きりになるのはナオとだけだよ。他の男なんて虫けら以下の存在なんだから。虫と一緒にカラオケ行っても仕方ないでしょ」
相変わらず、ナナは口が悪い。面接とか絶対に受からないだろう。
「ナオ……。明日、もし僕が学校に来なかったら、双子山を警察と一緒に捜索してね。きっとそこには、以前僕だったモノが小便垂らしてぶら下がっているだろうから」
ハハ、と元気なく笑う未来。危険な状態だった。不安になった僕は、未来の耳元で囁く。
「ナナはさ、照れてるんだよ。未来が、あまりにもいい男だから」
薄っぺらーい嘘。
「本当かいっ、それ! やったぁ」
「声のボリュームが大きいって。みんな、見てるよ」
すれ違う人たちが、みんなクスクスと笑っていた。かなり恥ずかしい。
「仲がいいね、ナオと未来って」
ナナは、羨ましそうに僕たちを見ていた。
ゲーセンに着いた僕たちは、対戦ゲームやUFOキャッチャーをして遊んだ。
「ねぇねぇ、ナオ。三人でプリクラ撮ろうよ!」
何故か、興奮している未来。プリクラなど興味なかったが、未来が眩しいぐらいの笑顔で誘うもんだから僕もナナも渋々参加した。
カシャッ。
僕は、出来上がったばかりのプリクラを見ながらぼんやりと考えていた。
「ナオ! 未来の部分だけマジックで消したこのプリクラさ、財布にでも貼っておいてよ」
学校で一緒に勉強し、学校帰りには時間を忘れるぐらい夢中で遊ぶ。いつまで、こんな生活が出来るんだろう。
「ナオ? どうした」
もし、あの薬で発作を抑えることが出来なくなったら?
彼らは、躊躇なく僕を襲うだろう。恐いというよりも、なんだか凄く悲しくて。
「本当にお腹痛いの? 僕、近くの薬局で薬買ってくるよ」
「大丈夫だよ。少し考え事してただけ」
「何を考えていたの? もしかして」
『私達が、化け物になってナオを襲うことかな』
ドキッとした。ナナの勘の鋭さに驚く。
「その可能性は、数パーセントもないと思うよ」
下を向き、自信なさげに言うナナ。ってか、数パーセントって結構危険な値だな。
「まぁ、そのときは諦めてよ。僕の血となり肉となって、僕の中で永遠に生きてくれ! 他の覚醒者に喰わせるぐらいなら僕が食べる。髪の毛一本も残さないよ」
コイツに至っては、もはや喰う前提で考えている。友達解消しようと本気で思った。
「綺麗な夜空だねぇ」
「明日、晴れるねぇ」
「なに、その棒読みは。僕は、ナナや未来のこと信じてるよ。覚醒しても絶対に僕を襲わないって信じてる」
友達を信じられなくなったら、終わりだ。
まぁさっきは、喰われそうになったけど。今度は、きっと大丈夫。僕たちの絆は、覚醒者の呪いの運命をも凌駕するはず。
「そろそろ夏も終わるねぇ」
「ほら、秋の足音がすぐそこまで来ているよ」
「だから、その棒読みはなんなのっ!! 自信ないの? 僕を襲うの? 信じていいんでしょ」
「文化祭の準備が始まるねぇ」
「今年の出し物は何かねぇ」
「…………」
違いなんてない。僕たちは、同じ『人間』
………………のはず。
完
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