第58話 顔

雲間から見える大きな顔。

顔と言っても、あるのは目と口だけ。

だから男なのか、女なのか分からない。


あれは、いったい何なのか?


誰に聞いても分からない。


…………分かるはずない。


アレは、僕にしか見えないんだから。



いつもは、無表情。ただ、この表情が変わる時があって。


例えば、笑顔。


笑顔の時は次の日、必ず晴れる。

だから、遠足の日とか家族で出かける時は、前の日に必ず空を見る癖がついた。


泣いている時。泣き顔の次の日は、雨になる。



テレビの天気予報なんかより、この顔の表情の方がよっぽど信用出来た。



笑った顔………泣いた顔…………。



だけど、怒った顔は見たことがなくて。


見てみたいと言う欲求が、日に日に強くなっていった。なんで、こんな話をしたかって言うと。昨日、初めて怒った顔を見たんだ。



今ーーーーーー


僕は外に出て空を見上げている。

僕だけじゃない。近所の人も。もしかしたら、世界中の人が空を見ているかもしれない。


絵の具で描いたような真っ赤な空だった。ぼとぼと、空から鳥が落ちてくる。

目の前に落ちたカラスは、苦しそうに喘ぎ、震えながら死んだ。



きっと明日は、もっともっと狂った天気になる。人類最期の日になるかもしれない。



だって、怒った顔が今は8つも見えているんだからーーーー

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