ワンカップ大関新入幕
大波小並感
初日
深夜2時。
凍てつく1月の北海道のコンビニの一角に私は鎮座していた。
透き通ったガラス製の体に、これまた透き通った液体が詰まっている。
「佳撰 金冠 ワンカップ®」
どうもこれが名前らしい──私のいる棚の値札にこう書いてあったから、たぶん間違ってないと思う。
隣にも全く同じ姿をした奴がいて、私の後ろも同様だ。規則正しく2列縦隊していてその先頭に私がいる。
およそ10分ほど前、私の前にいた同じ奴が人間に買われた。我々は売り物であるらしく、"買われる"ことで役目を全うするとされている。買われた後どうなるのかは知らないが・・・自分で言うのも変だが綺麗な体をしているし、しゃれた半透明の帽子まで被っているのでインテリアかなんかになるのではないだろうか。
しかしどうだろう、先刻買っていった人間はやたらと汚い印象を受けた。伸びきった髭、ぼろぼろの服、「あった」と呟いたときに覗かせた歯は1本ほどしか見受けられなかった。──家を持ってなさそうだった。
なんというか、我々を買っていく人間はどことなくやつれたのが多いと感じる。この棚に並べられている名前の違う奴らは外が暗くなった頃に続々買われていくが、我々は明るいときでも絶好調である。ただ、彼らの目は深く濁っているのが気がかりであった。
さて、私が先頭に出てから20分ほど経ったが・・・お、1人の男性客が入店してきた。
よれよれの黒いスーツを着て、メガネは斜めにずれている。
スーツに身を包んだ人間は大体21時までには来るが、まれに深い時間に猫背になってやってくるときがある。彼らは入店するやいなや決まって冷蔵コーナーに吸い寄せられ、"強い"を意味するアルファベットの書かれた缶を買っていく。銀と黒を基調とするアルミ製らしいその缶は果たしてインテリアなり得るのだろうか・・・
などと思考を張り巡らせていたその時、その男性客は我々の陳列される棚の方に現れた。
彼は棚をくまのできた目で一瞥すると、なんと私に手を伸ばしてきた!
ついに、買われたのだ。
さらばコンビニ、いとおしき2列縦隊。私は今、役目を全うしました───
幸いにもこういった見た目をした人間は住みかはあるというので、ひとまず安心である。
これからどんな生活が始まるのか・・・
干された海洋生物がパック詰めされた珍妙なやつと共に、男性の歩調に合わせて揺れる袋の中で、私は理想のインテリア像を思い浮かべていた。
ワンカップ大関新入幕 大波小並感 @onami_konamikan
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