空にかかる花園の書 ※完結

全38篇(創作時期2000年~2010年)

啼かぬ鳥

雪まだ残るノルウェヰの森で

わたくしは貴方様に救われました。

いづれの城主様でせう。

傷ついた羽を治してくださったそのお館様には、

なんとおこえがありませんでした。

流行病か不慮の事故か

小さなわたくしには知る由もありません。

深憂にかげるお貌を癒さうと、

のぞまれるままに歌ひ続けることが、

わたくしのせめてものご恩返しでありました。


ブルゥグレェの高貴な眸子が

日ごとむのを見てゐると、

もっともっと倖せに……

さう願わずにはゐられません。

しかし、

わたくしにはそれが出来たのでございます。

此のこえを差し上げませう、愛する貴方。

春が来ても、その先も、

わたくしは啼かない雲雀になりませう――。


翌朝、

30年振りのあるじのおこえ

城内は歓喜で満たされておりました。

さうして貴方様は仰るのです。

艶やかなテノォルで、

「今日もおまえの歌を聴かせておくれ」と。


3日が経ち、

1週間が過ぎるころには、

わたくしは空へ放たれました。

「歌わぬ雲雀とりは鳥じゃない」

貴方様の最後のお言葉でした。

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