第3話 『重さんと呼んでくれ』

願いも虚しく、家重は竹光を抜き、構える。周りがどよめく、相手の浪人は、大爆笑だ。当然だよなぁ。

「本当にそれで相手をする気か?貧乏浪人め!分け前が欲しいなら、引っ込んでろ!」そう思うよなあ。

「竹光では勝てないと思うのなら、かかってくるが良い。」

「う、徳山さん、これを使え、それよりはマシだ!」自分の刀を渡そうとするが受け取らない、これは竹光じゃない。

「要らん、ただ、・・貴満こいつの刀はなまくらだ。」それが何?!斬られたら大事どころじゃないって、世の中ひっくり返る!勘弁してよ!

舐め切った浪人が、切りかかってくる。それを避けた家重は峰に返した竹光で、刀の峰に叩きつけると、刀は、地面に刺さって折れた。返す竹光で首を打つと気絶して倒れる。

さらに斬りかかろうとする浪人の顔を切ると、相手は、あっさりと降伏した。

「な、竹光は強いだろ。貴満。タケミツ、タカミツ、ややこしいな。」確かに

「そんな事より、ケガはありませんか?」

「全く問題ない」問題山積みですよ!

「とにかく、二度と危ないことはしないでください!」

「俺は全然危なくなかったぞ。あいつら弱かったしな。」反省してないな、こいつ

本人にしか聞こえないように近づいて、耳元で囁くように喋る。

「あなたに傷一つでもついたら、何人の首が飛ぶと思ってるんですか?そんなに人が死ぬのが見たいんです?」

「むう、それはまずいな。分かった、うかつに出て行かぬようにする。」

「あのう・••」後ろから急に声を書けられ、びっくりして振り返ると、先ほどの店主がいた。聞かれたか?

「なんだどうした?」

「いえ、助けて頂いたお礼を••・」この様子では聞いてなかったな。

「私は、この店の主人で、嵯峨野屋、伝兵衛と申します。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「拙者は大山貴満、こちらは、徳山重太郎殿だ。」

「シゲさんと呼んでくれ。」簡単に言うなぁ

「そう言うわけには参りません。大山様と、徳山様ですね。お二人は何か決まった仕事をお持ちですか?」

「いや、見ての通り浪人だ。定職などないな。」

「では、うちで用心棒をやっていただくわけには参りませんか?もちろんお部屋は用意いたします、食事も用意いたしますので。如何でしょうか?」

「先ほどのような奴は多いのか?」

「近頃、食い詰め浪人が増えてきました。治安も良いとは言えませんし、なんとかお願いできませんでしょうか?些少ですがお手当もつけさせて頂きます。」

「あ、いや、せっかくの話だが、こいつは妻がいるし、拙者は叔父の家に居候しているので、こちらに来るわけにはまいらぬ。」上様うまい!

「お住まいはどちらですか?」

「わしは、神田橋、こいつは、八丁堀だ。」

「もしかして、同心だったのですか?大山様は。」

「同心にはよくある事なのだが、時々、役が無くなることがあるのだ。と言っても、クビになると言うわけではなく、人手がいる時のために、役宅に待機してもらうのだ。だからまた同心に戻る。」よくもまあ、すらすらと、嘘八百並べられるよ。こうでないと将軍は務まらないのかな?ふだんは、あーとかうーしか言わないくせに。頭の中はこれだけ回っているわけだ。

「ワシは、寄合旗本の五男坊で、故あって勘当されたのだが、勘当されたとは言え、母がうるさいので叔父の家にいなければならぬ。と、言うわけで、用心棒の件は諦めて欲しい。浪人のようだが、浪人ではないのだ。嘘をついてすまなかった。」二人で頭を下げる。逃げおおせたかな?

「わかりました、何かお願いしたいことのあったときは大山様のところへ伺うようにします。」

ダメだった。


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