第2話『拙者は、徳山重太郎、浪人だ。』

家重は、病弱ということで庭にすら、たまにしか出してもらえなかったため、大勢が忙しく動き回る街の様子を見て興奮していた。

現在の服装は、袷に筒袴、少々薄汚れている。どこから見ても浪人にしか見えない。

「う、徳山さん、ちょっと待って下さい!」

この親父、病人のくせに意外と足早いなとか思いつつ、追いかけていく。

「忠光、修行が足りんぞ!しっかりせよ!」

焦っているのは、忠光だけではない、御庭番の雑賀衆も、家重の元気な行動にびっくりしていた。

雑賀衆頭領の息子である、宗助も先回りをしつつ危険箇所の確認、排除をしていく。が、間に合わなくなっていた。

町娘に因縁をつける、無頼浪人たちに出くわしてしまった。

家重は嬉々としてそれに向かって行く。行動のわかった忠光は、心の中で叫んだ「勘弁して下さいよ〜〜」

浪人達は、あきらかに店を脅そうと、わざと水をまいている所へ寄っていったのだ。周りもそれは分かっているのだが、関わりを恐れて誰も口を出さない。

「やい!どうしてくれるんだ!びたびたにしやがって!」

「すいません、でも、わざとじゃないんです。」まだ、10歳くらいだろうかあきらかに怯えている。

「てめえじゃ話にならん!店主を出せ、店主を!」

店主が袖から、懐紙に包まれた一分銀を取り出そうとする。慣れているのだろう、店頭で騒がれるよりも、小銭を渡して追っ払った方が手っ取り早い。

しかし!それよりも早く、お節介が首を突っ込んだ。

「お主達、水がかかったくらいで大騒ぎとは、情けないと思わんか?」

「なんだ貴様は!関係ない奴は黙っておれ!」

「拙者は、徳山重太郎。お主らと同じ浪人だ。先程から見ておったが、その子が水をまくのに合わせて足を出したろう。」

「偶然だ!それに、水がかかったことに変わりはない!」

「それくらい少し歩いていれば乾くであろう」

「町民が、武士に無礼を働いてただで済むわけはなかろう。」

あ、ヤバイ怒り出す手前だ。家重は権威だけで下級の者をいじめる奴が大っ嫌いなのだ。老中の首が何人飛んだやら。

鞘を持つ左手が小刻みに震え出した。爆発寸前だ。

忠光は思わず前に出て「武士武士言うが、子供を脅して、それでも武士か!」

「貴様!われらを愚弄するか!」

その時だった、家重が手桶に入った水を浪人にぶっかけた。何という事を!勘弁して下さいよ〜

「貴様!」あ〜抜いちゃったよ

「娘、安心するが良い。これでこいつと俺の争いになった。店に戻っておれ。」

娘が離れるのを見つつ、さらに厄介になったと思った。

家重は柳生新陰流免許皆伝な上、身分を隠して武芸者と対戦している。わざわざ影武者を置いて、将軍だとわからぬようにして、それでも勝つほど強いのだ。

問題は刀だ。抜くようなことにはならないだろうと、竹光なのだ。

も〜〜〜勘弁してよ〜〜〜〜〜

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