暴れる某将軍
式 裕貴
第1話将軍市井へ出る
「わしは街に出るぞ!」九代将軍家重は、側用人となった大岡忠光に命じた。
「なんと、おおせられます!」
慌てる忠光に家重は、当たり前のように告げる。
「父上は、繁く市井に出て、民の暮らしぶりを見ることも為政者として大事なことだと仰っていたぞ。」
忠光は驚きに目を丸くするが、そこで引き下がらずに反論する所は大岡越前を彷彿とさせる。
「先代吉宗様は、確かに時に街へ出られていました。然し、常に大岡様がそばにおられました。今は大岡様はいらっしゃいません!」
「大岡なら、そちがいるではないか。」
「私は、大岡忠相には遠く及びません!」
家重は、『何を言ってるんだこいつは?』という目で忠光を見る。
忠光は能力の違いを言ったつもりだったが、家重は単純に人物の違いと思ったようだ。
「そちが、忠相ではないことがわからない余だと思うのか?」
「私では、上様を危険から守り切ることは難しいと、申し上げております。」
「忘れておるぞ忠光。余には、雑賀衆が常に周りにいることを。」
将軍には、『御庭番』という、周囲を守る集団がいるのだが、初代家康の頃は、伊賀者と呼ばれる警備集団が、周辺を守っていたが、吉宗が将軍の座についた時、雑賀衆に警護を変えたのだ。
尾張徳川家に近い、伊賀者を嫌ったとも言える。
尾張徳川家は、先代の宗春の時の失政で、財政が破綻しており建て直しに必死で、将軍家に何かしようという気は全くなく、将軍家の御三卿設立によって将軍になることがほぼ不可能になると、経費節減のため、伊賀者を切った。
家重は伊賀者を、大名監視と、情報収集の役をあて、雇用を守ったため、
勢力争いが起こることもなく、お互いに協力し合っていた。
「宗助も其処に控えておる。」植え込みがガサッと動くのがわかった。
忠光も宗助のことはよく知っているので、諦めたように、ふうっっとため息をつく。
「わかりました、お供させていただきます。ですが、くれぐれも危険なことをなさらぬようにお願いいたします。」
肩を落としつつ、家重の後をついていく忠光であった。
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