第2話 ドグマくんと女神さま

とても綺麗な満月の夜。

そのぬいぐるみは月光を浴びてそこに座っていました。

どのくらいそうしていたのか、ぬいぐるみは色褪せており、所々にほつれもみられます。

かつてはドグマくんと呼ばれ可愛がられていましたが、ずいぶんと長い間、人の入った跡はみられません。

ある夜。突然、優しい光が部屋に満ち、なんとそこには女神さまの姿が。

とても慈愛に満ちた眼差しで、

「可愛そうなドグマくん。」

女神さまは言います。

「ドグマくん。あなたは何年もの間大切にされ、人間の愛をたっぷりともらいましたね。ですが、ある日、憎しみや悲しみ、怒りをぶつけられ、ここに置き去りにされてしまいました。そして長い間太陽の光と月の光を浴び続け、ようやくこの日が訪れました。」

そう言いながら、女神さまはドグマくんを優しく抱きしめました。

「さあ、ドグマくん。めを覚ますのです。」

女神さまとドグマくんは不思議な光に包まれ…


「うーん…。」

なんと、ドグマくんが言葉を話しました。

「ここはどこ…?ぼくは…。」

「おはよう、ドグマくん。」

キョトンとした目で女神さまを見つめるドグマくん。

「あなたはだあれ?ジムのおともだち?」

女神さまは首をふり、

「いいえ、私は月夜の女神と呼ばれています。私はあなたの様な、忘れ去られた、子どものお友達だった者達に、次の道を示す者です。」

「わすれさられた…?」

ドグマくんの頭に、あの日のことが思い出されました。

「そうだ。ぼく、ジムにたたかれて、なでなでされて…」

そっと目を閉じ、あの日を思い出す。

「…ばいばいされたんだったね。」

女神さまは悲しくも、優しい目でドグマくんに問いかけます。

「ねぇ、ドグマくん。あなたはジムのことをどう思う?」

「…わかんない。いつもいっしょにあそんでたけど、いつだったか、あるひ、とつぜんなげられて…たたかれて…。」

少しの間沈黙が流れ…

ドグマくんがぽつりと言います。

「ぼく、もうジムといっしょにいられなくなっちゃったんだ、ね。」

女神さまは静かにドグマくんのお話を聞いてます。

「ジムたちはみんな、いつかはおとなになるんだよね。だから、ぼくたちは、ジムたちみたいにおとなになれないから、いつかばいばいするのもしかたのないことだもんね。」

「必ずしもそうとは言えません。」

「え?」

女神さまは真面目な顔になり、

「あなたのこれからの未来は、いくつかに分かれています。その中で、あなたが本当に、心から進みたい道を進めるように、いくつかの試練を超えてもらわなければいけません。」

「むずかしいことはわかんないや。でも、そのしれんっていうのをやったら、またジムといっしょにいられるの?」

「それはあなたが決めること…私はいくつかの道を示すことしかできません。その示された道の中から、ドグマくんがどうしたいのかを決めるのです。誰かが決めた道よりも、あなたが心から進みたいと思う道を選ぶのです。」

いまいち理解できないドグマくん。

「ふふ、まだよくわかっていないようね。わかりやすく言うと…そうね。ドグマくんがこうしたいなって思えるように、ちょっとした問題をだすの。」

「もんだい…?」

女神さまにっこりと微笑み…

「今にわかります。ドグマくん。あなたはもう一度眠りにつきます。そして、再び目が覚めた時はここではない場所にいるでしょう。そこへ案内人が現れ、あなたを先導します。けれど答えを教えてくれるのではありません。時に厳しく感じる事もあるでしょう。ですが、それはあなたのホントの気持ちを確かめる為に必要なことなのです。いじわるなんかじゃありませんからね?」

「うん…。」

「では、そろそろ眠りなさい。さあ、あなたの未来は、あなたの気持ちの導くままに…。」

辺りは淡い光に包まれ、そこにはドグマくんだったモノだけが残っていました。

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