いざよいフレンズ ドグマくん

いざよい ふたばりー

第1話 ドグマくんとジム

ドグマくんは、ジムが3歳の誕生日にやってきました。


今日はジムの誕生日。朝からとても天気が良く、心地よい風が吹き、木々や草花、小鳥やお日様たちもジムの誕生日を祝福しているようです。

「お誕生日おめでとう。」

おとうさんがいいました。

「お誕生日おめでとう。」

おかあさんも言いました。

「ジム、誕生日プレゼントだ。とうさんとかあさんでお前のために選んだんだが、気に入ってくれるといいな。」

おとうさんはそう言い、リボンが結ばれている、大きな箱を持ってきて差し出します。

「ありがとう!あけてもいい?」

目を輝かせ、ジムは聞きます。

「ええ。あけてごらん。きっと気に入るから。」

おかあさんもなんだか嬉しそう。

ジムが箱を開けると…

「わあ!かわいい!」

箱の中にはジムより少し小さめの、赤い服を着て緑のズボンをはいた、子犬のぬいぐるみが入っていました。

「この子はなんて言う名前なの?」

ジムがたずねると、おかあさんは、

「ジム、あなたが名前をつけてあげて。」

「そうだな、その方が、きっとこの子も喜ぶよ。」

おとうさんがそういうと、ジムは頭を悩ませます。

「うーん。どうしようかなぁ…。」

ああでもない、こうでもないと考えながら、ジムはぬいぐるみを見つめています。すると…

ぬいぐるみに付いているタグを見つけたジム。

「あれ?何か書いてある。名札かな?」

「えーっと…ドッグ…マニア…?」

このぬいぐるみのシリーズ名か何かでしょう。

「ドッグ…マニア…ドグ…。」

「そうだ、この子の名前はドグマ、ドグマくんだ!」

「あら、かわいい名前ね。」

「いいんじゃないかな。男の子らしい名前だ。」

おとうさんもおかあさんも大賛成。

ジムはニコーッと笑うと、

「よろしくね!ドグマくん!」

ギュッとドグマくんを抱きしめました。

その日から、ジムは何をするにもドグマくんと一緒。

ご飯を食べるとき、お外で遊ぶとき、寝るときだってドグマくんと一緒。

両親から叱られたときにドグマくんを抱きしめると、ドグマくんが慰めてくれているように感じます。両親に褒められたときにドグマくんを抱きしめると、ドグマくんも一緒になって喜んでくれているかのように感じ、ジムにとってはまるでほんとうの家族のようでした。


しかし–––


ジムが大きくなるにつれ、だんだんとドグマくんと遊ばなくなりました。

その理由は単純なもの。ジムよりほんの少し力が強く、背も高い友達に、

「お前、いつもぬいぐるみなんか連れてきて女みたいだな!」

と、笑われ、

「あら、ジムはぬいぐるみが好きなの?」

女の子はクスクスと笑います。

「ぬいぐるみを連れてるような奴はおままごとでもしていればいいさ!」

こんな風に友達からからかわれ、ムキになってしまったジム。

恥ずかしくて、悔しくて、ムッとして。

「ぬいぐるみなんて、別になくてもいいよ!」

なんと、ジムはドグマくんを放り投げてしまいました。そして–––


その日を境に、ジムはドグマくんとだんだん遊ばなくなりました。


ある日。

ジムも8歳になり、友達の家で遊んでいましたが、友達はジムがドグマくんを連れていた頃のことをむしかえし、

「もうぬいぐるみは卒業したのか?」

ジムは恥ずかしくて言い返します

「そんなこと昔の話だろ、それとも何か、お前はまだ3歳の時みたいにヒーローごっこでもしているのか?」

友達と喧嘩をしてしまいました。

家に帰ったジムは、ドグマくんを見つめています。

「お前のせいで僕は恥をかかされたんだ。」

ドグマくんに八つ当たりをしてしまいました。

ドグマくんを叩いたり、蹴ったり…

「トムが言うんだ。ぬいぐるみに名前なんかつけてかわいいな!って。女みたいだなって!」

心のどこかではドグマくんは悪くないと分かっていながらも、恥ずかしさ、悔しさで、ジムは泣きながらもドグマくんに乱暴なことをしてしまいます。

気持ちが落ち着くと、ジムはドグマくんを見つめながら、

「…ごめんね、ドグマくん。ドグマくんは悪くないのにひどいことしてしまったね。」

反省し、ドグマくんを撫でるジム。

「僕が小さい時は一緒になって喜んでくれたり、叱られたときは慰めてくれてたよね…」

「こんな事もあった。かあさんが、この牛乳をこぼしたのはだれ!?って聞くんだ。どう見ても犯人は僕しかいないのにね。でもなぜかあの時、ドグマくんの口の周りが白く汚れててさ、かあさんはそれを見ると、ドグマくんがやったのね!さあ、謝りなさい!なんて言うんだからドグマくんが可哀想になって、僕は言ったんだ。ちがう、おかあさん。ドグマくんじゃない、僕だよ。牛乳を飲もうとしてこっぷについだらこぼれちゃって…。そしたらさ、おかあさんはドグマくんはジムをかばってえらいね、ジムはちゃんとごめんなさいできてえらいね、って言って許してくれた。…もしかしてあの時、キミは僕を助けてくれたのかな。」

昔を懐かしむような目でドグマくんをみつめ、そっと撫でるジム。

「他にも不思議な事はたくさんあったな。僕が風邪ひいた時、おかあさんは寝てる時間なのに、起きた時におでこのタオルが冷たくなってた。他にもあるぞ。クレヨン無くしちゃったんでみんなで探していた時だ。座らせてたドグマくんが倒れたから、起こしてやるとドグマくんの手元に探してたクレヨンがあった、なんて事もあったよね…」

「本当に色々、楽しい事や悲しい事を分け合って来たよね。だから僕にもドグマくんが本当の兄弟のように感じてた。もちろん、おとうさんもおかあさんも、僕と同じようにキミに話しかけていた。本当の家族みたいだった…」

しばらくの間、無言でドグマくんをなで続けるジム。

ドグマくんの顔も心なしか不安そうに見えます。


「でも…」


「でも、もう僕はぬいぐるみで遊ぶような歳じゃないんだ。」


そう言い残し、ドグマくんを倉庫の中に置いていってしまいました。

ドアを閉める時、かすかにジムの「ごめんね」が聞こえたような気がしました。

やがてジムは友達とも仲直りをし、スポーツや他のことで友達と遊ぶようになり、ドグマくんを倉庫の中に置いたまま何日も、何ヶ月も、何年も時が経ち、やがてジムはドグマくんの事をすっかり忘れてしまいました。


倉庫の中にぽつんと座っているドグマくん。

ドグマくんの顔は、光の加減か、その目には涙が浮かんでいる様な、どこか悲しげな顔をしている様な、そんな風に見えます。


さらに月日が流れ–––

ある満月が綺麗な夜のこと。

ドグマくんの前に女神様が現れました。

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